偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

古川日出男『サウンドトラック』感想

古書店で目が合ったので買ってしまいました。


うーん、なんか、難しかったです。

海難事故で父親を失った6歳のトウタと、母親の無理心中で海に落ちながら生き延びた4歳のヒツジコは小笠原の無人島に流れ着く......というのが発端。

しかし無人島生活はわりとさらっと流れて、保護されたり養子になったりと紆余曲折を経てお互い別々に東京本土へ辿り着いてからが本番。
トウタは流れ者として不法入国の外国人と暮らしたりとワイルドに生き抜いていき、ヒツジコは女子高生になり人を操るダンスを武器に少女たちの指導者となっていく。そして、東京編から新たに登場するアラブ人街に住むクィアな少年/少女のレニは、写真銃で世界をshootして魔力を持つ映画を撮る......。
この3人がアウトサイダーや弱者といった立ち位置から東京という都市に反旗を翻す......という青春小説なんですね、たぶん。

分かりやすさとか筋立てを整えるとかをガン無視して本筋かと思ったものがどんどん変容していきカンケーなさそうな支流へどんどん枝分かれして印象的なエピソードがまとまりのないまま羅列されながら話が進んでいきます。エンタメ的な感覚で言うと枝葉っぽい部分に筆が費やされ、逆にこれからクライマックスだぜイエイ!ってところで終わるので......。
文体も独特で、これが文学的というならそうなのかもしれないけど、厨二病の大学生が奇を衒って書いたと言われればそんな気もするような文章で、正直ちょっと読みづらかったです......。特に三人称によるガールたちの独白はちょっとオジサンっぽく感じてしまいます。

ただ、ヒツジコの養父母、結婚式場ビルのピアス、医者のリリリカルド、エロテロリストおじさんなど、キャラが立ちすぎた脇役たちとの出会いや別れはやはり印象的だし、さっきは「枝葉」とか言ったけどそういうとこがめちゃくちゃ面白かったです。

本作の発表年は2003年ですが、作中のメインの年代は2007〜2009年。
しかし、作中の東京はヒートアイランド化が進みすぎて熱帯と化し、マラリアなどの熱帯感染症が流行り、一方西荻窪では外国人排斥運動が進んで独立国家のようになり、地下には"傾斜人"と呼ばれるエミシが天皇の転覆を図って蠢いている......という、いやいや、5年後にそうはならんやろ......と思いつつもかなりリアルさも感じさせる設定が凄いです。
2022年現在にも通じる、40度を超える真夏、新型コロナの流行、外国人労働者への差別や分断といったトピックが極端に描かれているに過ぎないので、地方民からすると現実の東京ってこんな感じなのか??とも思ってしまいます。

そんな感じで、私にはまだ早い感じがしたのと地方民なのもあって余計にノリきれなかったですが、部分部分はしっかり面白くなんだかんだ強烈に印象には残る作品でした。
著者のもうちょい短いやつを読んでみようかな......。