偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

谷川史子『忘れられない』感想

少女漫画を読むなんてこともなかなかない経験ですけど、めちゃ良かったわ......。なんつーか、俺たち男子が「卍、解!!!」と叫びながらぼくの考えた最強の斬魄刀で戦ってる間に女子がこんなもんを読んでたのかと思うと、女子という生き物に一生追いつける気がしないですよね。
もっと少女漫画読まなかんわ。

てわけで本書は前後編の表題作に短めの読み切りを3編加えた短編集。
どの話も恋の切なさと煌めきを真空パックしたようなエモいストーリーで、セリフの強さや演出の上手さに乗せられてぐいぐい引き込まれてしまいました。
あと、絵がめちゃ可愛かった!
全話いいんだけど特に表題作と最後のやつが好きです。

んじゃ以下各話感想です。



「忘れられない」
表題作で、前後編に分かれた本書で1番長いお話。
かつて恋人だったけど恋距離になってすれ違い別れてしまった男と再会して今ちょっといい感じに......という主人公のピュアラブと、年に一度1人で出かける母親が今年はなかなか帰ってこない......というサイドストーリーが絡み合う物語。
前編はとにかく主人公と元カレの関係性がもどかしくてお前らもう付き合っちゃえよ〜🥰とか思いながら読んでたんですが、前編のラストの展開があまりにも意外すぎて、最初誤読かと思ってしまったほど。あの演出はすごい。
そんな急展開からピュアで甘いラブストーリーだったのが一気に切なさMAXになる後編がたまらんすわ。
身勝手な恋をちょっと美化してでもきちんと終わらせて、「忘れられない」ままで進んでいく姿にぐっときた。
あと男と寝るシーンと母親と寝るシーンの対比も素晴らしいよね。



「つまさきで踊る」
続くこのお話はもう胸きゅん100%で火ぃ吹きました。土器が出てくるシーン最高だし、タイトルのつまさきで踊るシーンも最高だった。
女の子がめちゃくちゃ可愛いんだけど、私はもう擦れてしまったのでこういう女ヤベェぞという感じがなんか、、、してしまうな、、、そんな過去がフラッシュバックしてなんか無駄に苦しい......。



「エンドレスマーチ」
犬神家オマージュから始まる意外性に笑いつつ、犬神佐兵衛翁とは違ってめっちゃ優しい、今はもういないおじいちゃんの思い出の物語。
不器用なところが似ている主人公とおじいちゃんが、もう会えないけどやっと分かり合えるのが素敵で泣いちゃう。胸きゅん要素もありつつあくまでそっちメインなのが良かったです。



「春の前日」
こんなん最高やんな。
春、梅、鳥......。たった10ページの掌編でありながら、春という季節に託して描かれるとある恋がまさに「忘れられない」物語。
短い分量で緻密に練られた構成が上手すぎて何回も読み返しては唸らされてしまいます。桜じゃない、梅の美しさを教えてくれる、あまりに切なくも優しく春の暖かさの予感を感じさせてくれる傑作です。