偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

『セブン』をまた観てしまった......。

今月のふぇいばりっと映画のコーナーを復活させると言いましたがやる気が出ないのでやめときます。そのかわり、今年はもうちょい気軽に映画のネタバレ感想を単体記事で書いていこうと思います。


というわけで、何回目か分かりませんが3回目か4回目くらいに見たこの映画についてです。
前回見た時のネタバレなし感想はフィルマに書いてあるので、今回はネタバレのみでさらっと書いてみようと思います。

以下ネタバレ注意。




































ネタバレ感想です。
と言っても、本作に残された謎とか、作中で語られない真相についての新解釈とかは頭悪いし知識もなくて出来ませんので、思ったことを適当に書き殴ることにします。


何回も観てるとはいえ前に観たのは数年前、まだ結婚する前のことでもあり、環境が変わった今観るとまた感慨深かったりします。
初めて観た時には純粋にミステリ/サスペンスとして面白くってハマったと思うんだけど、改めて観るとむしろサスペンスっぽさを削ぎ落としている印象さえありました。
事件は常に起こった後で、主人公たちは犯人を追うというよりも、犯人が行った殺人を観客として観ているのに近く、追ったり追われたりというサスペンスみはゼロに近いです。
唯一中盤で雨の中追いかけっこする場面がありますが、そこくらいなもん。

それより何より、主要キャラたちの人間関係や世界観(人生観)の部分に、他人事とは思えないくらい引き込まれてしまいました。
というのも、本作は言ってしまえば反出生主義についての話なんですよね(いや、他にもいくらでも見方はあるけど私にとっては)。
反出生主義という言葉を知ったのは、反出生主義に近い思想が私の中に固まった後だったので、正直なところ嫌いというか、「俺が思ったこと先に言われてた!」というショックのようなものがありました。まぁ歴史上人間が何百億人いたのかと考えると私が考えることくらいとっくの昔に他の誰かが通ってて当たり前なんですけど。
ただ、私の場合は別に子供を産むこと自体を丸っ切り否定するつもりはないし、自分だって子供が欲しい気持ちがないわけではない。そりゃ、夫婦二人で生きていってもどちらかが先に死ぬわけだから、残った方はどうなるのかって思うと看取ってくれる存在を生贄として召喚しておいた方が得ですからね。
ただ、たぶん子供を作る人ってのはそこまで考えてなくて、ほんとに可愛いからとかそれが普通だからとかくらいで作っちゃうんだろうなと思うのでこんなことごちゃごちゃ考えてる私や貴方達がおかしいんだと思います。
ただ私みたいな親にも容姿にも恵まれて実家は金持ちで頭も性格も良い優れているとされる人間ですら選べるなら産まれてきたくはなかったと思うので、自分に子供ができて「生きててよかった!」と思えるような人間に育てる自信はないです。
それに、人間が何人も集まれば大学のサークルくらいの規模でも地獄になりますからね。
人間が3人以上いればどこでも地獄なんですよ。
とはいえ、産まないのもそれはそれで何も残せず孤独に死んでいくという地獄ですからね。やだやだ。
......という私の考え方と、本作の主人公の一人であるサマセットの世界観は似ていると思いました。
トレイシーとミルズの新居にサマセットが招かれるシーンのヒリヒリ感もなんか凄かったですね。トレイシーだってミルズのことを愛していないわけじゃないだろうけど、それ以上にどうしようもない、0.05ミリ程度ではない隔たりがあることを知っていて、ミルズはそれの正体を知らないけどやっぱりなんとなく察していて、そんな中家が揺れるわけですよね。あの幸せな光景にも見える3人笑い合うところに、それぞれ通じていない感じがしてとても怖かったです。あそこが1番怖かったかも。
で、サマセットがミルズの妻のトレイシーと密会して話すシーンで一気に引き込まれてしまいました。「産まないなら内緒にしろ、産むなら目一杯甘やかしてやれ」というのが、私のスタンスを言語化してくれているようです。というか、今って結構みんなそのくらいの緩い反出生主義者なんじゃないですかね。過去の人類の歴史をお勉強させられて、しかし現在この国は、この世の中は歴史の過ちを何も生かせずに繰り返していて、未来にだって何の期待も持てず、掌の中で全てを知ることができてしまうからもう人生でやることもない。そんな時代ですから、こういう考え方の人って今は多いと思うけど、それを私が産まれたくらいの頃に描いていた本作はやっぱ先見の明だな、と思います。

ジョン・ドゥはなんか厨二病拗らせてる感じはするけど、この醜い世の中と何も分かってない馬鹿共への憤りが強すぎて世直ししたくなっちゃってる辺り私そのものだし、サマセットはその厭世感がジョン・ドゥと通じていて、ミルズは正反対のようでいて自分の中の理想を強く持っている点ではサマセットよりもミルズに近いものがあり、サマセットとミルズの間のグラデーションの中にジョン・ドゥという怪物(普通の人間)がいるあたりも物凄い構図ですよね。

ラストシーン、ヘリが飛んでてバンがやってきてっていうのを、あえてなのかちょっとだけ冗長なテンポで描いているのがむしろ焦燥感を駆り立てて良いですよね〜。
ブラピの「おう!おう、ゴッド!」ってとこ、上手いのか下手なのか分からないくらいの生々しさが凄く私は好きです。

「この世は素晴らしい、戦う価値がある」
後の部分は賛成だ

田舎に引っ込みてえよぉ〜とか言ってたサマセットが、ミルズと出会い今回の事件を経て最後に産まれてきたことは否定しながらもこれから生きていくことについて積極的にというか、戦っていく意志を固めるようなモノローグを残して終わるあたりの、後味悪いだけじゃない何かが残るところも凄く好きです。
そして、ジョン・ドゥの名前から始まり普通とは逆に下に流れていくエンドロールとデヴィッド・ボウイのハーツフィルシレッスン、最後の最後までガンギマってて最高っすよね。
そんな感じで、なんかもはや別に映画の感想とかじゃなくなったきがするけどセブンめっちゃ良いです。それではさようなら。