偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

アイスクリーム・フィーバー(2023)


デザイン会社に就職するも過酷な労働環境のせいで退職して今は渋谷のアイスクリーム屋でバイト長をする菜摘(吉岡里帆)は、ある日店を訪れた作家の橋本(モトーラ世理奈)に一目惚れしてしまう。
一方、姉との間にわだかまりを抱える優(松本まりか)の元を、姉の娘の美和(南琴奈)が訪れる。母と別れた父親のイズミを探したいという美和を泊める優だったが......。


はい、というわけで、私が今一番好きな人間であるたかはしほのかさんがコメントを寄せていたので観に行きました。
あと、気になりつつまだ『夏物語』と『そらスコン』しか読めていない川上未映子さんが原案なので観に行きました。
あと、普通に吉岡里帆さんと松本まりかさんがかわいいので観に行きました。


んで、本作ですが、私の中でも賛否両論というか、いいと思ったとこと好きじゃないとこがどっちも結構あって、結果偏差値50......みたいなところがあります。
なのでもうシンプルに好きな点と好きじゃない点を挙げていこうと思います!



・好きな点

本作は、アイス屋の菜摘と作家の橋本のパートと、叔母の優と姪の美和のパートの2つの筋が並行して語られていく群像劇。
冒頭ではなかなかどういう話で誰がメインキャラなのか掴みづらい所があるんですが、そこからだんだんと物語の輪郭が掴めてくる構成が面白かったです。意外と捻りのあるつくりになっていて、物語の全貌を掴むのはちょっとしたパズルのようで、ミステリファン的にも楽しめました。

画角が横幅狭い4:3で懐かしい感じだったりスプリット画面とかの変わった演出が多用されていて、映画というよりはMVみたいな映像だったのが新鮮で、キュートでポップで楽しかったです。

豪華なキャストたちが良い意味であんまり濃すぎない等身大のキャラを演じているのも心地よかったです。このキャストだったらもっとクセ強くも出来そうなところをこんくらいに抑えてあるのがオシャレ。
みんな普通の人で、めちゃくちゃ惹きつけられるようなカリスマ性とかはなく、それでも一瞬だけスポットライトの当たる瞬間を描いているのが美しい。特に菜摘と橋本がキッチンで話すところの、なりたかった何者かにはなれなかったけど生きていても良いんだと気付くようなシーンには泣きそうになりました。

それと、吉澤嘉代子さんによる主題歌「氷菓子」がめちゃよくてさっそくサブスクで聴いてます。

あと、これは別になんの関係もないんだけど、川辺素が出とるやんと思ったらジャルジャル後藤だった。画像検索したら別に似てねえわ、何で間違えたんだろう。でも後藤さん絶妙に良い味出してて良かったです......。



・びみょい点

水カンの詩羽さんが出てて、ミュージシャンなのに普通に演技に変なとこがなくて凄いと思ったんだけど、彼女のキャラ付けがイマイチよく分からんかったです。
キャラとしてそんなに掘り下げられないわりに、モノローグで生い立ちみたいなことが語られたり意味深に踊ったりとけっこうフィーチャーされてるのが中途半端に感じてしまいました。

上記のように映画というよりMVみたいな映像なのが面白くもあるんだけど、そこに令和の昭和レトロみたいな色彩や小道具とかも加わるとオシャレ圧が強すぎて一周回ってダサく感じてしまう瞬間が多々ありました。

そういうアート指向なところがあるわりに、お話はかなりセリフで説明してる感じが強かったかな、と。
読んでないので申し訳ないんですが、恐らく川上未映子の原作からの引用であろう印象的なフレーズがところどころ差し込まれるのは鋭いんだけど、そこからセリフで補足しちゃうことで鋭さが鈍る......みたいな。
かなりパーソナルな話なのに取ってつけたように社会的なセリフを入れてくるのもむしろ浮いてて痛く感じてしまいました。

あと、吉澤嘉代子の曲が流れたところで物語としては結構クライマックスだったので「この後後日談ちょっとやって終わりだな」と思ってたらその後も普通にかなり話が続いてちょっとダレてしまいました。曲が強いだけに、もっと温存しといても良かったんじゃねえかと思ってしまいます。



という感じで、良かった点と惜しかった点が同じくらいあるんですが、まぁでも面白かったし曲やキャスト良いし観に行って良かったと思います。