偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

川夏子『boy meets "crazy" girl』感想

恋する気持ちの中に潜む少しの"Crazy"を描いた、著者デビュー作となる掌編集。

恋の狂気と言うとストーカーとかSMとかなんかそういうヤバそうなのを連想してしまいますが、本作で描かれるのはそういうんじゃなくて、好きな男の子の服装や髪型を真似る「きみになりたいガール」や、好きな先輩の存在を自分の中から消そうとする「0か100かの極端ガール」のような、ある種ピュアなクレイジースピッツの「初恋クレイジー」という曲があるんですが、そんな感じ。
ドロドロしたところがなくさらっと描かれつつも小さなトゲのように胸に刺さってしまうところもどこかスピッツを感じてかなり好き。
また各話ショートショートくらいの短い分量の中でキャラクターの背景とかをいちいち説明せずにその一瞬の彼と彼女の関係性だけを切り取っているのが特別な煌めきを演出していて素敵すぎる......。

特に好きなのが「お城に夢見るガール」。付き合ってるわけでもないし恋愛なのかと言うと微妙なんだけどある予感だけがあってでもその予感も予感であるためだけのもので予感以上にはならない感じがめちゃくちゃ良い。かつて人生にあったような気がするこんな感じの瞬間を大事にしたいですよね。

また、boy meets crazy boyの「りそうのひと」の夏のヒリヒリする焦燥感や、girl meets crazy girlの「自信過剰ガール」の一瞬にして胸きゅんで心臓をぶち抜かれる瞬間風速の物凄さも印象的で、「バイトと店長」も含めてむしろこの辺の同性の関係を描いた3編が最高でした。