偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ベイビー・ドライバー

まあその時々の気分もありますが、基本的に「一番好きな映画」にはこれを挙げております。

3回観ました。劇場公開時、DVD、そして先日の爆音映画祭での、計3回。一番好きのわりに少ないようですが、同じ映画を2回観ることもほぼない私としては快挙(?)。そしてこれからも何度でも観ると思います。

そんで、今回爆音で観たことでまたこの映画への愛がぐわーっと湧き上がってきたのでブログに書こうと決意したものの......。
好きすぎてもうどう書いていいか分かりません!言葉がエモに追いつかないのです!
仕方がないのでとりあえず記事をネタバレなしとネタバレありの2部構成にすることにしました。
ひとまずちょっと落ち着いて、これからネタバレなしでの紹介をしますね。
で、続くネタバレありのコーナーで、具体的に好きなところとかラストの自分なりの解釈とかをエモに任せてガーッと書いていきたいと思います。


ネタバレなしコーナー!

はい、ではまずネタバレなしコーナーです。

本作のあらすじですが......

主人公の"ベイビー"は、ワケあって強盗グループの"逃がし屋"の仕事をしています。
幼い頃に遭った事故の後遺症である耳鳴りを消すため、常にiPod音楽を聴いている変人ですが、車の運転に関しては誰もが認める天才です。
そんなベイビー、ある時カフェエの女給のデボラというGIRLに出会いをします。そして、彼女のために犯罪組織から足を洗おうと決意して......。

......というお話です。

太字で示したことからお分かりの通り、本作の軸は「音楽」「運転(=アクション)」「恋(および人間ドラマ)」の三本柱です。

私はこの映画を3回見たと書きましたが、この三本柱がまさに、何度見ても楽しめる要素として見事に機能しているからこそ何度も見てしまったのです。
細かくいうと、音楽とアクションは「何度見ても飽きない」要素で、ラブストーリーや人間ドラマは「何度も見ることで深みを増す」要素なのです!
つまりこの映画、何度見ても飽きない上に何度も見ると深みを増す、何度も見るために作られたような映画なのです!何度何度うるさくてすんません!

そこにはきっと自身が映画オタクであるエドガー・ライト監督の、「何度も見てくれるオタクを楽しませよう」という気概が込められているのでしょう。知らんけど。
ちなみに監督のそうしたオタク趣味は、「ショーン・オブ・ザ・デッド」「ホットファズ」「ワールズエンド 酔っ払いが世界を救う」の3部作でも全開です。それぞれホラー・ミステリ・SFにコメディをぶち込んだヘンテコ面白ムービーなので併せてお勧めさせてください!





さて閑話休題
上にあげた三本柱について語っていきます。



まず、本作の特徴は何と言っても音楽とアクションの融合です。
かっこいいアクション映画も選曲がハイセンスな音楽映画もごまんとあるでしょうが、音楽とアクションをここまで見事に融合させたのはこの映画が初めてなのでは?

というのも、この映画では音楽がただのBGMではなく、映像と完全にシンクロしているのです!

例えば、冒頭がエグいです。
車で待機しながら音楽に合わせてハンドルぺちぺちワイパーきゅっきゅっエアギターぎゃんぎゃんエアヴォーカルうわんうわんとはしゃぎまくるベイビーの姿は、そのまま曲のPVのよう。
というか、監督が以前撮ったという何かのミュージックビデオを前見ましたが、ほぼこんな感じでした。
さらにそのままエゲツないド派手なカーチェイスになだれ込み、「Bellbottoms」を一曲まるまる使って観客を音と車の世界に強制連行してくれます。

で、百聞は一見に如かず。冒頭のシーンの動画があったのでそのまま貼っときます。
https://youtu.be/6zuamtyFyKs

でもそれって別に主人公が聴いてる音楽に合わせて動いてるだけだから普通じゃ〜ん、って?
いやいや、たしかにその通りですが、これはまだまだ序の口。
本当に凄いのは、キャラクターの動きだけに限らず、全編に渡って映像と音楽が緻密にシンクロしていることなんです!
歩くテンポ、コーヒーのカップを置く音、車のアクセル、銃声などなど、映画の中で起きるあらゆる物音が音楽に組み込まれているんです。音楽に合わせて体を揺らしながら観ていたのですが、その自分の揺れに合わせて銃声などが鳴り響くという体験はカタルシスでした。

私は映画監督じゃないので実際どうやって撮っているのか知りませんが、絵コンテなりなんなりで秒単位のシミュレーションをしなければこんな映像は作れないです。そんな細かいことをやってのける監督の熱量、これぞオタクの鑑ですよね。

で、音と映像の「合わせ方」が本作の特徴ではありますが、もちろん選曲自体もステキですよ!

私は洋楽はもうダフト・パンクビートルズをちょっとだけ齧った程度で丸っ切り聞かないから、正直この映画に使われている曲で知っている曲はひとつもありませんでした。
しかし、そんな私でもサントラ買うくらいステキなので、洋楽聴かない人こそ観てほしいです!

アクションでラブストーリーなので基調はわくわくするロックときゅんきゅんするバラードが多め。
それぞれの曲について書いていくともはやサントラのアルバムレビューみたいになってしまうので端折りますが、とりあえず「Never, Never Gonna Give Ya Up」と「Brighton Rock」が曲もかかる場面も大好きで何回も聴いちゃってます(推しキャラがバレる二曲ですね)。
https://youtu.be/JXQ-qs5bDkI
https://youtu.be/WOlN2a5jPhM



さて、そんな感じで音楽と映像のかっこよさで何度見ても飽きない本作ですが、上にも書いたように、ストーリーは何度も観ることで深みを増していきます。
こっからはそんなストーリー部分についてネタバレにならない程度にその見所を紹介します。

まず凄いのは、どこまでも映画が好きな人間のツボを突いてくる伏線の置き方と脇役の魅力なんです!

伏線といっても別にミステリじゃないので「怒涛の伏線回収」みたいなものではないのですが......。
前に出てきた事柄やセリフが気持ちいいタイミングで繰り返されたりだとか、主人公がテレビで聞いたセリフを少しずつ使っていくという遊び心など、絶妙にオタク心をくすぐる伏線の置き方がステキです。
そして、それがただの遊びに終わらず、人間ドラマを強調する役割を果たしたり、はたまた本作のテーマ自体を示唆していたりと、非常に有意義な使われ方をしているのがお見事。何度見ても細部に新しい発見があって飽きさせません。

そして、脇役さんたちですよおおぉぉぉ!!!(すみません推しキャラを思い出して興奮しました)

ベイビーの養父のジョー、強盗チームのボスのドク、サイコ野郎のバッツに、ラブラブ犯罪者カップルのバディとダーリンと、とにかく脇役さんたちが濃いんです。
しかも、ただ濃いんじゃなくて、主人公たち2人の恋愛模様の脇で彼らのこれまでの人生についても最低限の描写で仄めかされていることで、それぞれの過去を持つリアルな人間としてその姿が浮かび上がってくるんです。
そして、全員に見せ場がしっかりあるんです。だから見終わった後に、主人公たちの恋模様と共に、あの場面でのあの人カッコよかったな......という脇役さんへの愛着も溢れてくるんですね。
というかぶっちゃけ、私が個人的にイケオジのバディさんが大好きなんです!それだけですすんません!その辺のことはネタバレ感想の方で詳しく書きます。
そしてそして!本作で何と言っても大好きなのがラストの展開なんです!!

伏線や脇役などのいろんなおもしろギミックはあるものの、やっぱりメインは主役の2人ですよ!ほい!

本作のストーリーの軸って、ホントに、主人公のベイビーが好きな女の子のために犯罪稼業から足を洗おうとするって、そんだけのシンプルなお話なんですね。
でも、シンプルなだけにストレートに心を打つんです。そもそもキャラクターが魅力的なので、観ている人はベイビーとデボラの恋路を応援したくなること請け合い。ラストの展開も、某有名映画をアップデートしたもので、古典的ないい話でありつつ今の時代に求められる物語でもあるという......。
あの結末にもう、人生の全てが詰まっているといっても過言ではないと思う気がしなくないこともないんです!
まぁ要は完璧な筋立てなんですよおおぉぉぉ!!!(すみませんラストを思い出して興奮しました)
この辺こそはもうネタバレ感想で詳しく書きますが、とにかくもはや涙しか出ません......。てかそんなラストまでにもすでに4回くらい泣いたんですけどね。デトックスや〜。

というわけで、音楽と映像が完璧に融合したアクション映画にして、恋と人生を完璧に描き出した人間ドラマで、つまるところ完璧な映画です。今まで観た映画で一番好きです!

というわけで、ネタバレありコーナーへ続きます。









ネタバレありコーナー!!

はいそれでは!ここからはネタバレありでラストのことなどを書いていきたいと思います。



まずはいきなりですがラストについて。

この作品、終盤でベイビーが若者たちから車を奪う際に「ボニーとクライドかよ」と言われるように、『俺たちに明日はない』的な逃避行ラブストーリーの様相を途中までは呈すのですが、最終的にはベイビーは自ら投降し、罪を償って再びデボラに会う......という超絶怒涛に感動的なオチになってます。おっと強い主観が混じった......。

で、この流れだと『俺たちに明日はない』のようなラストとか、2人で首都高を走ってる映像でジ・エンドとかでも良さそうな気がするのになんでこうなるのか、というところに、本作のテーマである「愛」と「アイデンティティ」というものがある気がします。

話は遡りますが、そもそもこの映画では序盤から登場人物の本名が一旦伏せられる形をとっています。
強盗チームの人たちがみな通称(コードネーム)で呼び合っているのは犯罪組織だからにしても、養父のジョーも本名ではありますが愛称ですし、ヒロインのデボラも名札を読む場面で一旦「あ、この制服は友達のなの。私はデボラよ」みたいな小芝居が挟まれます。
これはもちろん、気になる女の子の名前を知ることのトキメキでキュンキュンさせる手法であり、分かりやすい通称を付けることでキャラを手っ取り早く立たせる手法でもあると思うのですが、それ以上に名前というものが「アイデンティティ」の象徴として扱われているからだと思われます。
デボラの名前を知るシーンは、彼女の個に初めて触れたということ。「デボラ」の歌を紹介するシーンは彼女に向き合おうとすることではないでしょうか。
そして他のキャラクターたちの本名も、それぞれの見せ場の近くで明かされます。もちろんそれが自然でもあるんですが、それによって彼らが偽名や愛称という記号から、生きた人間になって存在感を増すような感覚があります。
そして、最後の最後までベイビーが「ベイビー」なのは自分がなかったから。だから彼は音楽で耳を塞ぎ、映画の中のセリフで喋っていたのではないでしょうか。そう、映画のセリフを引用するのは、ただの伏線遊びではなく、彼がまだ自分を確立していないことを表していたのですね。こういう分かりやすい暗示も本作の「深いけどエンタメとしてシンプル」という魅力を体現しています。
で、ベイビーの話に戻りますが、そんなアイデンティティのなかった彼が、デボラを危険に巻き込まないために投降するに至って、彼女への「愛」という絶対的に確かな存在証明を手に入れた......そこで、最後の最後になってようやく彼の本名が「マイルズ」であると明かされるのです。いや、知りませんよ?私はそう読んだということです。はい。
つまりそう、この映画は恋が愛に変わり、"ベイビー"が一人の人間に変わるその瞬間を鮮やかに描き出した、とても美しい物語なのです。

そんなわけで泣きましたよラスト。
2回目以降は後の展開を知っているだけに、ベイビーが助手席で目覚めたところでもう泣いて、スピーカーに手を当て(ううっ......)車を止め(うえっ、うえっ、)鍵を(ひっく、ひっく)抜いて投げ捨(うぅ〜〜っ!)てたところでもう涙を呼び出すエモが最高潮に達して水で画面が見えなくなるため、実はラストシーンをまともに見たことがないくらいですよ。



で、まぁラストはそんな感じで号泣ですが、実は今回の3度目の鑑賞では、そこ以外にも泣いた箇所が4つほどあります。多いなおい!

......あ、すいません、ラストの解釈という一番大事なところは書き終えたので、あとはもう徒然なるままに適当に何も考えずにエモを吐き出すだけのゲボみたいな駄文になるので読んでもらわなくても結構です。ただ感情が抑えきれないから書かせてくれ!

で、4つの泣いたシーンの話でしたね。
まず1つは、ベイビーとデボラがダイナーでデートした後の車の中での会話。
「君は僕にとって奇跡なんだ」「ふさわしくない」ってとこ!
私も人に対してふさわしくないような人間なので......などとベイビーちゃんと同一に語るとファンの方に怒られそうですが、常に「ふさわしくない」という気持ちで生きているのでとてもなんかこう、泣いたよ。泣いたよーん。でろりろりーん。

で、ふたつめとみっつめはどっちも養父のジョーにまつわるシーン......というより、そうですね、まずジョーを施設に置いて行くシーンですよね......。純粋に「泣ける」という意味ではもうここしかないですよね。 はじっこまで、グッドラック、はぁ......。
で、そうなることを知ってから観たもんですから、今回はなんとジョーがベイビーを心配してピザ屋の仕事を紹介するシーンすら泣きました。もう完全なとばっちりですが(?)、ジョーが出て来るだけで涙腺が緩む身体になってしまったのです。どうしよう、こんなんじゃお嫁に行けないよぉ......😢

で、最後の1つですが、これがねぇ、私の推しキャラのバディさんのシーンですよ。そう、ダーリンを失ったバディさんがデボラの店で拳銃を持って待っているところ。「Never,Never Gonna Give Ya Up」という名曲のおかげもあるでしょうが、「いい女だった」「愛していた」と語るバディの喪失と狂気に悲しいやら怖いやらでどっちなのか分からない涙が溢れました。
一応アクション的に見るとこの人はラスボスなんでしょうけど、バディとダーリンが2人で経験してきたことをここまでに上手いこと想像させてくれていたから、彼の喪失感が痛いほど伝わってきてなんかもう彼とベイビーが戦うこと自体がつらいと思いつつブライトン・ロック最高Yeeeeeah!!!というエモの空回りのようなクライマックスも含めて、やっぱバディさん好きですわ......。
彼はきっとラストで投降しなかったベイビーの行き着く先の姿なのでしょう。ラストバトルはいわば、バディの過去と、ベイビーの未来との戦いなのです。

あ、ちなみにゲヴィン・スペイシーことドクの最期もなかなか感動です!じゃあなんで「ウェートレスの彼女かわええやん大事にしろよ〜(脅)」とか言ったんやひどいやんとかは思うものの、甥っ子の面倒を見てたり案外優しい人だったのかもとも思ったりして。本作に続編は絶対いらないけどドクのスピンオフとかなら観たいなと思ってしまいました。まぁゲヴィンスペイシーがどうなるのか分からんしアレだけど......。



はい、まぁそんな感じで、何回見てもアガって泣ける良い映画なんですよこれ......。
まだまだ細かいところで書きたいことがなくもないけど疲れたし収拾つかなくなってきたのでこの辺で打ち切ります。一回しか見てない人はとりあえずもっかい見てみてください!
じゃ、ばいちゃ!