偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

後藤正文『何度でもオールライトと歌え』感想

中学生の頃にアジカンを知り、高校生の時にガッツリとハマりました。
今ではなんかブログで「音楽的なことは分かんないから〜」とか言いながらひたすら歌詞の話をしてる私ですが、しかし当時は歌詞というものをほとんど意識してなかったんですね。
なのでアジカンの歌詞の内省的だとか政治的だとか言われてるのも別にピンと来てないというか、気にしてなかった。

しかし最近になって改めて聴き直してみて、特に近作の政治や社会にきちんとNOと言う、しかしそれと同時に自分も省みるようなアジカンの歌詞の凄味がじわじわと分かってきて、改めてこのバンドを好きになって良かったと思っているところです。
高校生の時には政治なんて他人事で、ミュージシャンのくせに政治の話をするなという例のアレを思っていたのですが、この歳になるとむしろ政治とか社会問題について何も話せないような表現者の方がダサい気がしてきてます。

前置きが長くなりましたが、本書はそんなアジカンのフロントマンである後藤正文ことゴッチの、日常生活とこの社会についてのエッセイ集です。



さて、そんなわけで私は一応長年のアジカンファンなので、本書もめちゃくちゃ楽しく読むことができました。
少なくとも普段のゴッチの発言に抵抗のないファンの方ならまず楽しめる本であると思います。
あくまでゴッチという1人のおっさんの日記でしかないので、ゴッチに全く興味がない人はもしかしたらそんなに面白くないかもしれません。
ただ、普段アジカンの曲を流してると感情が無になるうちの妻に試しに1話読ませてみたらめちゃくちゃ笑ってたので、プロのエッセイストほどのレベルを期待せずに読めば本人に興味がなくても普通に面白いと思います。

本書に収録されてるエッセイは、主に面白おかしく日常を綴ったものと、3.11以降の原発問題や政治のあり方、社会の分断などについて率直な思いを綴るものの2種類に分かれています。
前者の面白日記については「ゴッチってこんな面白い人だったんだ」と思うくらい笑えました。素直で捻くれた性格が滲みでる惚けた味わいの文章で、品性は感じさせつつも下品じゃない程度の下ネタもあり、なんつーか読んでてすごくちょうどいい心地よさがあるんですよね。
一方で、後者の真面目サイドの方は、何かを「これが正しい」と言い切るのではなく、ゴッチ自信迷いながらも真摯に考えた上で、考えは変わるかもしれないけど現時点ではこう思う、というのをおずおずと差し出してくれる感じ。押し付けがましくなく、特定の思想に偏ることもなく、あくまで市井の1人の人間として分からないことは分からないと言いながら「一緒和に考えましょう」と語りかけるようなところが素敵なんすよね。

という感じで、ゴッチの愉快さと誠実さとが一堂に会した1冊になっていて、ファンとしてはめちゃくちゃ楽しめました。