名前はもちろん聞いたことあるけど読んだことなかったオノナツメさんの単巻の長編漫画。
父親に「恋人を殺す」と脅されている少女アイリーンは、道端にいた浮浪者風の青年イアンを恋人の身代わりにしようとする。しかし、彼の話を聞くうち、彼が自分の叔母と再会するためにこの街へ来たことを知り......。
イアンというシンプルな青年のノットシンプルな人生を描いた作品で、実際に旅をするシーンはほとんどないものの、旅から旅への駆け抜けたイアンの人生はどこかロードムービーのようでもあり、読み終えて表紙のロードムービー感溢れる絵を見てるとじわじわと余韻が込み上げてきます。
プロローグからして、再会を待ち侘びた想い人に会えずに死を迎えるイアンという、最悪な結末が先に描かれてしまいます。
さらにプロローグの最後ではイアンの友人のジムもまた生きてはいないであろうことが仄めかされ、暗く不穏なトーンで物語が始まります。
本編に入っても、両親に愛されず、大切な姉は刑務所にいて長く会えず、さらに......と、こうして文章にしてみると壮絶で悲劇的な彼の人生が淡々と語られていきます。
しかし、不思議と重たい絶望感はない......いやむしろ軽やかで時にユーモアさえ感じさせるのは、イアンという主人公のピュアさと真っ直ぐさによるもの。
悲しいことだらけで、最後まで報われない彼の人生ですが、本作を読んでいるとそんな彼の人生を「こんな風なら生きなきゃよかっただろうに」とは思えず、少なくても彼を大切に思う姉や友人の存在だけでも価値のある一生だったんじゃないかと思わされます。
本当に感じたいのは、もっと近くの人のぬくもりなのに
という言葉があまりに悲しくて忘れられないけど、それでも読後感は不思議と絶望的な気分でもない、まさにnot simpleな後味の残る作品でした。