偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ピアニスト(2001)


母と2人で暮らしながらウィーン音楽院で教える、未婚で中年のピアノ教師エリカ。ある時、彼女に一目惚れした青年ワルターが音楽院に入学し彼女の生徒になる。エリカに言い寄るワルターだったが、やがて彼女の異様な嗜好を知ることになり......。


ミヒャエル・ハネケ監督による官能ラブストーリー......ってもう、普通に官能ラブストーリーなワケもなく......。静かで淡々としていながら激しく残酷でもある、サイコスリラーよりも恐ろしいラブストーリーでした。

なんてったって主人公エリカを演じるイザベル・ユペールが凄い。さすがフランスの至宝。
クラシック音楽を愛し、ポルノショップであんなことをするという極端な高尚と低俗の間を無表情で行き来する姿だけでもう「なんなんだ!?」と惹きつけられてしまう。
いわゆる毒親的な母親と暮らし続けることでじわじわとおかしくなってしまったんだろうなっていう悲しさが滑稽な性への探究の描写から伝わってきて悲しい。
美しい魔性を持ちつつ加齢臭のする汚いおばさんでもあり、凛々しく堂々としていながら弱くて卑劣でもあるような、あらゆる両極端を抱えるある種のイタさをとにかく無表情で表現し切るのが凄え。めちゃくちゃ美しいのに終盤のとあるシーンではお婆ちゃんにしか見えないところとか、あと何てったってラストシーンとかヤバすぎる。あの一瞬の表情は忘れられないですね......。

一方でそんな彼女に恋する青年ワルターブノワ・マジメルさんも素晴らしい。
最初出てきた時は「うわ、イケメン!てか美しい......」とびびったけど、その爽やかイケメンの中に傲慢さや繊細さや残酷さを隠し持っているのが少しずつ見えてきて凄え。

そんな、性に夢見る中年処女と傲慢な美青年の愛憎が面白くないはずもなく、随所で「うげえ」という気持ちになりながらも目が離せませんでした。
妄想と現実のギャップを突きつけられ、映画みたいなカタルシスのある破滅には踏み切れない、痛々しく哀れな結末が印象的。
あと、オープニングとエンディングの対比も良かった。エンドロールがよすぎる。