偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

桜桃の味(1997)


自殺を望む男は、車を走らせ、死ぬのを手伝ってくれる人を探し、兵士の青年、神学生、剥製師の老人に出会って依頼を持ちかけるが......。

桜桃の味(字幕版)

桜桃の味(字幕版)

  • ホマユン・エルシャディ
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キアロスタミ5回目くらい。
今んところ観たのはみんなこんな感じの車でイランの土と埃っぽい景色の中を走ってるようなのばっかな気がするけどたまに観るとやっぱいいんですよね。
日本とあまりにも風景が違いすぎてむしろ日本にもいそうな鳥とかが映ってると逆に不思議になるくらい。
基本的にそんな美しい風景の中を走りながら喋って自殺への協力を頼んで断られて......ってだけで進んでいくので前半はけっこう眠くなる......というか実は何回か寝落ちして再チャレンジを繰り返したんですけど、印象的な言葉や場面が色々あって良かったです。

書かれてる文字の意味も知らずにUCLAのTシャツを着てる労働者の青年とか、金が必要だから一度は主人公の男の話を聞く兵士や神学生ら。彼らに比べて主人公は金と学問があるからこそ自殺なんていう贅沢なことを考えるのかなとも思ったり。
自殺というものに対し、恐れたり罪だと言ったり今直面してたりかつて考えたことがあったりとそれぞれの態度がある。主人公の死にたい理由は明かされないんだけど、それによって「そんな理由で?」とか「それはしゃーない」みたいな価値判断をさせられずにフラットに観られる。「自殺なんて手伝えない考え直せ」とみんなから言われても届かないんだけど、1人でさっさと死なないあたり止めて欲しい感じはあるし......っていうのが自分が死にたかった時の気持ちに通じて、それに気付いたあたりからどんどん引き込まれてしまいました。
なんと言っても最後に出会う老人の言葉が全て至言だった。
桜桃の味」という本作のタイトルにそれが全て凝縮されているようで、最初は「説教臭えジジイだ」くらいに思ってそうだった主人公に少しず〜つ響いて「石3つ」に繋がるのが良い......。

そんで、あのラストっすよね。なんじゃこりゃってなったし第一印象は不可解だったけどなんとなーく分かる気がしないでもない......色んな意味で印象的な結末でした......。















































夜、主人公が穴に入って、翌朝生きてるか死んでるか......ってとこで突然の撮影クルー、、、。いきなりのメタ展開に何事かと戸惑いましたが、そして今でも戸惑ってますが、最後の撮影風景の春っぽい景色が老人の言ってた「桜桃の味」の話に通じるとともに、あえて主人公の生死から一気に視点を切り離すことで観客に生きることを突きつけてくる......ってことなのかな、と。

明日の夕陽を見たくないか?桜桃の味を忘れてしまうのか?といった老人の言葉が生きることはシンプルなんだと教えてくれますが、実際には色々なしがらみや思い込みで雁字搦めになって、生きたまま逃げるや捨てるという選択肢よりも死ぬことに焦がれてしまうのが悲しいところ。しかしこういう見方を植えてもらえたことでまた死にたくなっても生き延びられる可能性が広がった気がしてありがたいです。