偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

北山猛邦『さかさま少女のためのピアノソナタ』

『わたしたちが星座を盗んだ理由』に連なる、意外なラストにこだわったノンシリーズ短編集。

舞台や設定などは各話それぞれ違い、意外なオチもそれぞれ別の角度から攻めてくれる一方、「終末」の雰囲気は全体に通底しています。
一冊の本としてのまとまりと贅沢なバリエーションが共に味わえる楽しい短編集でした。





「見返り谷から呼ぶ声」

ぼっちの少女とぼっちに近い主人公の少年のシンパシーがエモい一編。
ぼっち描写がとにかく的確で、つい子供の頃を思い出して哀しい気持ちになりました。
具体的な地名も出てくるけどなんかこの世から離れた雰囲気が出てて、イザナギイザナミの神話などが引き合いに出されるのもその雰囲気を助長してます。
また、物理トリックを得意とすることから「物理の北山」の二つ名を持つ著者ですが、今回は物理トリックというよりはガチで物理の授業みたいな感じで「へぇ〜」と思いました。
意外なオチはさして目新しいものではないものの、演出が上手くてあっさり驚かされてしまいました。
(ネタバレ→)タイトルが主人公のことなのが面白いです。



「千年図書館」

災いが起こると生贄として村から図書館に「司書」が捧げられる......という奇抜な設定からして面白いです。
なぜ生贄が必要なのか?図書館とは何か?などこの世界の形そのものが謎となっていて、不穏で不安。
その中で少年と少女が2人、社会と隔絶されて在ることの刹那的なロマンチックさが好きな雰囲気でした。
オチに関してはまさかの蘇部健一方式で、メフィスト賞の先輩への敬意が感じられます。
このオチのワンアイデアから遡ってこの世界観を構築するのも流石ですよね。明かされてみればアレもコレも伏線だったという意味付けの上手さ。そして、(ネタバレ→)氷を溶かすほどの炎を生む「魔法」でもある原子力も、文明の無くなった世界では死の魔法にすぎないという皮肉な結末が好き。



「今夜の月はしましま模様?」

これ凄えっす。
著者には珍しい現代日本のお話。
発端としてまず月がしましま模様になり、そこからとある斬新な形態の異星人の地球侵略計画が進行しつつ、同時に山奥の村で密室殺人事件が起きる......まででやっと半分くらいという、Bohemian Rhapsodyみたいにめちゃくちゃな展開がヤバい。後半はさらにしっちゃかめっちゃかです。
とにかくいろんなモチーフが盛り込まれてて、とある有名漫画のパロディネタとかも入ってくるはっちゃけっぷりで、これどうやって収拾つけるんだろう?と思ってると意外なところから意外なオチが飛んできてぶったまげました。
(ネタバレ→)「作者が犯人」くらいまでなら見たことあるけど「作品自体が犯人」というのは斬新。
一つ一つの要素自体の面白さはもちろん、その意外な組み合わせで見たこともないワケワカラン話になってて、こんな話どうやって考えたんだろう?という感じ。もちろん本書でベスト偏愛作。
北山先生、頭いいなぁ(こなみかん)。



「終末硝子」

前話から一転して中世ヨーロッパ的な雰囲気が濃厚なダークファンタジー
霧の立ち込める故郷に帰ってきた医師の主人公。10年前にはなかった塔が村のあちこちに屹立している......という、あまりに不穏で異様で不気味で好奇心そそられる発端からして最高。
大都会ロンドンから帰ってきた主人公と、船で世界を見てきた船長。小さな田舎の村において外の世界を知り先進的な考えを持つ2人が互いにシンパシーも感じつつ水面化で腹を探り合う......みたいな話めちゃ良いっすね!
そっから昔の外国ミステリみたいなノリ(雑)になってくのもフインキあってサイコー。
そして、真相・結末の衝撃と緻密さは本書でも随一。
(ネタバレ→)塔が気象計の役割というのも人体をモノ扱いする第一人者たる北山先生の面目躍如。からの、怪しかった船長がガチで善意の英雄でしかなくて塔には避難所の役割もあってみたいな、全部がこの「終末」の時のために意味を持っていたというのが(終末の光景と相俟って)圧巻でした。



「さかさま少女のためのピアノソナタ

ラストは短く静かな物語。
現代日本の高校が舞台ですが、卒業式の日の誰もいない音楽室というシチュエーションがやはり終末感を濃く放っています。
都市伝説みたいな「弾いてはいけない楽譜」という発端からものすごい状況でのボーイミーツガールへのギャップと、その切ない美しさにジンジン来ます。
オチはお話としては最高なんだけど、ピアノをやったことがないのであれが成立するもんなのか......?とちょっと思いました。上手い人ならいけるのか......?
(ネタバレ→)『わたしたちが流れ星を』に比べて本書全体でも後味がはっきりと悪い作品は少なかったですが、ラストのこれだけはハッピーエンドと呼んで差し支えないもの。
これが最後に来ることでシロや船長の悲劇も救われるような優しい余韻が残ります。

話は繋がってないけど、本書全体のエンドロールのような、素敵な最終話です。