偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

歌野晶午『名探偵は反抗期』感想

歌野晶午って新本格ミステリ作家の中で一番改題が多いんじゃないかと個人的に思っているのですが、これも元は『舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵』だったものをシンプルなタイトルに改題したもの。
ちなみに本作はそんな舞田ひとみシリーズ第2弾ですが、1作目と3作目も改題されている上に3作目は元が『舞田ひとみ17歳〜』ですらないからもう何が何だか......。


というタイトルへの文句は置いといて、しばらく文庫化の兆しのなかった3作目を含むシリーズ全作が一挙に改題文庫化されたことはありがたいことではあります。

内容は、地味な中2の語り手と同級生の変人2人が、別の中学に通う名探偵(?)舞田ひとみちゃんと出会い、いろんな事件に巻き込まれていく短編集。

前作ではあくまで事件を捜査する大人に何気なくヒントを出す役どころだったひとみちゃんですが、3年の時を経て今作ではすっかり名探偵。その分叔父さんとかの存在感が薄れているのが寂しくもあり、頼もしくもあり。

各話の内容はシンプルな謎解きミステリで、伏線があり、トリックが一つあって、論理的な推理でそれを暴いていく......みたいな感じ。オーソドックスすぎてややインパクトは弱いものの、普通に面白いです。
また、お話としては各話でなかなか苦い結末になることと、前話の結末を受ける形で次の話が始まって苦い出来事を受け止めていく主人公たちの姿も見どころの青春小説になっています。
しかしひとみちゃんをはじめ変人の友人たちなど登場人物のキャラが濃く、歌野さんらしいユーモアに溢れる会話もとても魅力的!
全体で大きなオチとかはないし、最後まで掘り下げられない部分もありますがそこは次作とかで何かあるのかもしれないので次作も読みたい!けど年末で忙しいので来年かな......。

というわけで以下各話の感想少しずつ。



「白+赤=シロ」

地味に本書で唯一の殺人事件の話。
といっても、募金詐欺女を追え!というサスペンスみの強い発端で、ただ殺人事件が起きて警察が来て......という話にしないところが、ストーリー展開にも凝る歌野さんらしいですね。
トリックは単純すぎてそういうことなんだろうなと察してしまいますが、そこまでのヘンな過程も含めて面白かったです。



「警備員は見た!」

これもまたメインの事件に至るまでに紆余曲折。
中学生の服の盗難という出だしから、いつの間にか警備員による視線の密室のような状況に。
前話はトリック一発みたいな感じでしたが、今回はトリック+ロジックでしっかりミステリしてます。
しかし、謎が全て解かれるわけじゃなかったり、謎を解いた先にある結末がほろ苦かったりするのは青春小説としての味わい。人生の苦さを知って大人になっていくのですね。なりたくなくてもね。



「幽霊は先生」

一転、ガッツリ一本の実話怪談が挿入されるみたいな構成。もちろんほんとに幽霊なわけもなく、怪談の謎解きになっていくわけですが、この調査過程が都市伝説を追ったドキュメンタリーみたいな感じで面白いですね。
そして、真相への飛距離も素晴らしい。
謎というのは魅力的であるほど解かれてしまうと拍子抜けしたりもしてしまうものですが、その拍子抜けを別の味わいとして活かしているあたりが良いですね。



「電卓男」

怪談の後は暗号モノと、とにかく趣向を凝らしてくれて楽しいです。
小学生の弟が誰かと暗号メールでやりとりしているのを探るお話。
暗号の解き方自体はまぁ頭の体操レベルのものと言えそうですが、弟がそれを使って誰と何を話しているのか......というところからの展開が見事。暗号の方も、(ネタバレ→)今やガラケーからスマホに代わって久しいので、フリック入力じゃないメールの打ち方なんか忘れてたのもあって全然気づかなかったのは事実なので面白かったですしね。



「誘拐ポリリズム

「人攫いの歌野」の異名を持つとか持たないとかいう著者による誘拐もの短編。
短い中にアイデアがたくさん詰め込まれ、ひとみちゃんの探偵としての実技能力の高さも見られる、ミステリとしては本書で一番凝ったお話だと思います。
ほぼ全話に共通することですが、タイトルがかなりギリギリのラインを攻めているので、なんとなくトリックの雰囲気は察しがついてしまい驚きが薄れてしまうのが残念。全体にだけど、タイトルだけもうちょいなんとかしてほしかったかなぁ、と。



「母」

1話目と対を成す意図なのかどうかは分かりませんが、街で見かけた怪しい人(中央分離帯ダンサー)を追ううちに、全く別の事件に巻き込まれていく......という発端が似ていて、こちらも面白いです。
ひとみちゃんに起こる悲劇には苦笑ですが、そこから語り手エミリーの母、ひとみちゃんの母の話へと展開されていき、本書中でもシリアス色が強め。
その分会話の楽しさも際立っている感じがして、なかなか陰鬱な話ながらユーモラスな感じがしてしまうのが恐ろしいところ。
そして本作だけタイトルがシンプルに「母」なので真相も予想がつかず、その先にある苦い結末も含めてお話としてはダントツ面白かったです。
ひとみちゃんに纏わる未解決の謎が残るのですが、これが次作とかで拾われるのかどうかってのも楽しみですね。