偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

小川勝己『ゴンベン』感想


小川勝己の2007年の長編。
2008年の『純情期』を最後に新作の刊行が途絶えてしまった著者の、現状最後から2番目の作品に当たります。
私の未読も残りはちょうど『純情期』だけ。寂しいっすね。

タイトルの「ゴンベン」とは警察用語で詐欺のこと。
大学生の詐欺グループが小さな仕事から始めて徐々に警察や大物実業家やヤクザを向こうに回すようになっていくっていうお話。

一応コンゲームっぽい感じではあるんだけど、詐欺のゲーム性みたいなところよりもやはり著者らしいドロドロとした人間描写の方に目が行ってしまいます。
主要キャラはもちろん、モブキャラ視点もちょいちょい入ってくるけどそれもまた読んでて楽しいという、初期の『葬列』『彼岸の奴隷』のような作風に原点回帰してる感があります。

ただ、それだけに比べちゃうとちょっと大人しくなったかなぁという感も否めなかったり。
エロはないし、グロも控えめだし、ヤクザさんの胸糞悪いようなバイオレンスもかつての作品に比べるとなんか耐えられそうだなと思ってしまいます(いや、無理だけど)。
ストーリーも細かい騙し合いが多くてデカい意外性とかはそんなにないかな、と。

とはいえもちろん読んでてめちゃ楽しいのでファンなら必読だし、ファンじゃない人が初めて読むにも刺激が抑えめなので読みやすいのかなとは思います。