偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

マンダレイ


ドッグヴィルの続編であり、"機会の土地アメリカ"3部作の2作目に位置づけられる作品です。
トリアー監督の作品は多くがなんとか3部作というくくりにはなってますが、この連作に関しては、本当にキャラとかの設定も引き継いだシリーズものになっています。
ただし、製作が予定されていた3作目が現在無期限凍結中であるらしく、どうも完結することはなさそうな気配も漂ってますね......。
個人的にはけっこう好きなだけに残念。


マンダレイ デラックス版 [DVD]

マンダレイ デラックス版 [DVD]

  • 発売日: 2006/10/25
  • メディア: DVD


ドッグヴィルを後にしたグレースは、奴隷解放から70年が経っていながら未だに黒人を奴隷として扱う農村マンダレイを訪れた。
折しも、村の女主人"ママ"が死に、グレースは奴隷たちに自由を与えようと息巻くが......。



というわけで、本作について。
上記の通り、キャラクターや舞台劇のような演出は『ドッグヴィル』と共通。
ただし、主演が神々しい美しさを見せたニコール・キッドマンから、ブライス・ダラス・ハワードちゃんに交代。M・ナイト・シャマラン作品でもお馴染みの女優さんです。
素朴で可愛くもちょっとホラー顔で、グレースの人間味が出た本作には合ってたと思います。

題材は奴隷解放について。
「どこでもない村のどこにでもある問題」を切り取った普遍的な前作に比べると、奴隷解放というのは個別的で社会派なテーマに見えますが、それでいてやはり「自由とは?」「価値観とは?」といった普遍的なことを描いていて強烈に惹きつけられました。

で、今作ではグレースという人間の存在感がより増しています。
前作では村人たちのダークサイドを引き出すための装置のような役割だったグレースですが、本作ではかなり能動的に動き回ります。
しかし、「ドッグヴィルでお前は何を学んだんだよ💢」と言いたくなるくらい、やることなすこと裏目に出る皮肉が笑えます。
その極めつけが、あの、あのシーン......。絵面が衝撃的すぎて引きました。

また、これは私がミステリファンだから言うのですが、本作は「ママの法律」というルールの上に基づいた特殊設定ミステリでもありますね。
このルールに沿ってキャラクターが動くあたりは、犬神家の遺言状とかのイメージに近いかも。
思いの外、ミステリとして面白いラストでむしろ戸惑いました。そんなつもりで観てなかったのに......。

そしてエンドロールでは相変わらず踊りたくなってしまいつつ、相変わらず踊ってる場合じゃないスライドショー。
意外なミステリ風味もあってめちゃくちゃ面白かったけど、やっぱしんどいしもう観ないと思う。
そして、3作目を追悼............。いつかやってくれるのかな............??



(ネタバレ→)
「ママのルール」に従ってキャラが動く本作ですが、そのルールの正体自体がどんでん返しのようになっています。
それに加えて、「数字の1と7を紛らわしく書く」という設定がまさかの伏線になっていて、グループ1だと思ってたらグループ7だった、という特殊設定を踏まえたどんでん返しまで用意されてるのが凄い。
普通にミステリとして楽しめる仕掛けで、トリアー監督にこんなミステリ的なセンスがあるとは思っていなかったのでそのことも意外。

そして、その勘違いトリックによってグレースがニ🙅‍♂️ロコックに貫かれてしまうのが衝撃的ですね。
トリアー作品はよくミソジニーだの言われてますが、たしかにこういう、女が性欲を催したせいで酷い目に遭うみたいな展開はそんな気もしますね。まぁ私もミソジニストらしいのであんまりそのことを責められませんけどね。