偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

柾木政宗『NO推理、NO探偵?』読書感想文

 

でーん!第53回メフィスト賞受賞作!


誕生日が10月なので誕プレとしてフォロワーさんに頂きました。

 

見えそうで見えない表紙を、本の角度を変えたら見えないかな〜と奮闘していると、帯のハイテンションな惹句が目に入ります。


メフィスト賞史上最大の問題作!!」「『絶賛』か『激怒』しかいらない」


やれやれ、なかなかメフィってやがるぜ。
さらに本を裏返してみると錚々たる先輩作家先生方からの推薦文が。そのメンツが......

 

法月綸太郎青柳碧人円居挽、早坂吝、白井智之

 

......地雷だ!!!
というわけで、これから中学校に入学する少年のように期待と不安を胸に抱えて読み始めたわけですが......。

 

 

 

NO推理、NO探偵? (講談社ノベルス)

NO推理、NO探偵? (講談社ノベルス)

 

 

 

......プロローグでそっと本を閉じました。もう10月だからかやけに寒気を感じます。
いやいや、でもでも、最後まで読んだら意外と面白いかもしんないじゃんっ!というわけで、気合いで読み終えたわけですね。偉い。頑張ったよ、私。

 

 

では本題。まず全体のことについてです。
えー、本作は5編の短編からなる連作集になっています。問題作たるゆえんはその設定です。


主役は名探偵のアイちゃんと助手のユウの女子高生二人組。ある事件がきっかけで推理能力を失ったアイちゃんですが、ユウはこれを機に、アイちゃんをロジカルな推理などというしちめんどくさくて退屈なことをしない、パッとする名探偵にしようと目論見ます。

 

このように設定自体がミステリパロディ色の強いものなので、文章も地の文でメタなことを言ったりしつつ女子高生2人が漫才のような掛け合いをするものになっていますが......笑えねぇ............。

笑いってのは難しいですよね。テレビでお笑い番組を見ていても自分の好きじゃない芸人が出てきて全然笑えずにぽかーんと見てる時ってなんかこっちが悪いことしてるみたいな気分になりますが、本作もまさにそんな感じで、全体にギャグがつまらなすぎて謂れのない罪悪感を覚えました。しかも、当然ながらメタなギャグをやるために人間を描くということもハナから捨てていますので、主役の2人にそもそも全く愛着を持てず......。紙の上に書かれた文字としてしか認識できない女子高生が延々と滑り続けているのを読んでいくという萌えもひったくれもないある種未体験ゾーンの読書体験が出来たとは思います。

 

それでは以下、各話のざっくりとした感想、及びそれぞれ10点満点での採点を。

 

 

 

 

 

第1話「日常の謎っぽいやつ」

 

点数:★☆3点

 

アイちゃんとユウは公園で綺麗な石が等間隔で並んでいるのを見つけます。アイちゃんを推理しない探偵に仕立て上げようとするユウは「.これだ!今回のテーマは日常の謎ね!」と石の謎を無理やり事件にしてしまい......。

 

謎があまりに瑣末なのはパロディとしてのネタの一つでしょうからいいとして、ノリが本書でも一番鬱陶しかったです。


まず、地の文をポエム文体にするギャグくどい。一回や二回なら「滑ってんなぁ」で読み飛ばせますが、全編これだからもうつるつる滑りすぎてルームランナーみたくなっちゃってます。
あと2人の小学生が出てきますが、こいつらのキャラがエグい。「更田(さらだ)トマト」くんに関しては名前だけでもう生理的に無理。名前だけで聴く気がなくなる最近の邦ロックバンドみたいなもんです。おいしくるメロンパンとか。でもおいしくるメロンパンは聴いてみたら意外と良かっ......何の話だ。

 

おいしくるメロンパン「色水」 - YouTube


で、トマトくんの相方は常に誰よりも全力で滑ってるのですが、地の文では何故か上手いこと言ったような扱いになっているのが痛々しくて「もうやめてあげて!!」と叫びました。


でも日常の謎としてのネタ自体は小粒ですけど意外と嫌いじゃないです。あー、なるほどね、と。ただ、こういうネタなら加納朋子みたいな温かみが欲しいところで、このキャラとこの文体でちょっと良い話っぽくやられても心は凍りついたままですが。

 

 

 

 


第2話「アクションミステリっぽいやつ」

 

点数:☆1点

 

タイトルの通り、2人がゾクの抗争に巻き込まれるアクションミステリ......ってか、うーん、アクションスラップスティックコメディ(ただし笑えない)です。


真相の「実は......」ってのが後出しでいくらでも出来る上にキャラへの思い入れがないので「実は俺が黒幕だ!」とか言われても「あー、そう」としか。卑怯なのがそのことを作中でもネタにしてることですよね。ディスられる前に自虐ネタにして誤魔化そうとする魂胆が自分を見ているようで嫌悪感を催しました。あ、もしかして本作のつまらなさへの苛立ちはただの同族嫌悪なのかもしれません。私も今この文章を読んでもらっていたら分かる通りつまらないことしか言えませんから。


それはさておき、もう一つムカつくのが、一番の見せ場っぽいところで某名作のネタバレをかましてるらしいこと。某名作を未読なので読めなかったです。ちゃんと「ネタバレあります」って断ってはいますが、それすら「ミステリのマナーとして、ちゃんとネタバレありますって断ってるよ。へへん!」というアピールに見えてウザいです。


ただ、一つだけ良いところを挙げるなら、ゾクのチーム名が某作家縛りっていうのは笑いました。特に「スター・シャドー・ドラゴン三代目総長」のそのまんますぎるネーミングは良かったです。

 

 

 

 


第3話「旅情ミステリっぽいやつ」

 

点数:★★4点

 

警視庁刑事の兄から、埼玉県警の知り合いが担当している事件について聞いた2人は、埼玉県川越市へ向かう......「旅情ミステリ」をやるために。

 

......ってか旅情ってのはWikipediaをコピペしたかのような説明文のことを言うんですかね?

東京から埼玉というプチ家出程度の旅行とガイド本の丸写しでは旅情ミステリっぽさすらないでしょ。してることだってただの散歩じゃん。旅情ならせめてなんかもっとこう、温泉とか、、、温泉とか、、、発想が貧困で温泉しか思いつきませんね。


あと、うんこのネタ引っ張りすぎ小学生かよ!まぁ男なんていくつになっても小学生みたいなもんですけどね。

 

ただ、この話は悔しいけどやってることはちょっと面白いんですよね。まともなミステリでは必然性を付与するのが難しそうなトリックが、本作のノリなら「語り手の悪ふざけ♡」で許されちゃいますもんね。ある意味本書の設定を逆手に取ったトリックの異世界ミステリとも言え......いや別にそんなことはねえわ。

 

 

 

 

 

第4話「エロミスっぽいやつ」


点数:★☆3点

 

「っぽいやつ」だしこの作風だから分かりきったことではありましたが......エロくない!
今回はアイちゃんが容疑者に色仕掛けで迫るというネタですが、尋常じゃなくエロくないです。一応タイトルにエロと冠しているんだからもうちょいエロくしてくれてもいいのにと思います。その点エロミスの大家・早坂吝先生の股間に直接響く身も蓋もないほどのエロ描写はやっぱり凄えんだな、と。


トリックに関してはまぁ小学生向けのなぞなぞみたいな話なんでノーコメントで。

 

 

 

 

 

最終話「安楽椅子探偵っぽいやつ」

 

点数:★★★★☆9点

 

最終話、9点です......9点!?
そうなんですよ、今まで散々つまらないだの面白くないだの滑ってるだのと言ってきましたが、この最終話でほぼ満点近くを付けるほどに認識を改めました。

 

あまり詳しい内容を言っても興醒めなのでぼかしながらですが、連作としてのまとめがやがて予想もしない方向に飛び、これまでの4つの短編が、これまで出てきたつまらないギャグの数々が、そしてさらにメタ的な部分まで、本作の全てがこの一発ネタをやりたいがために書かれていたと明かされます!!!
それはもう、文字通りの「一発ネタ」です。正直なところ、最終話の中でもこのネタ以外の部分は上手いこと言ってるように見せかけて実は納得いかないことの方が多いです。でもここだけ、このネタの衝撃と笑撃だけでもう充分なんですよ。ここまで本書を読み進めながら「今まで読んだメフィスト賞作品でも一番の駄作では......?」と思っていました。でもそんな苦行に耐えてきたことがラストで報われました。

 

この景色、世界がひっくり返るようなこの景色を見るためだけに、私はここまで険しい道を読み進んできたんだ。
急勾配、道なき道を汗水垂らして登ってきたからこそ、頂上から見るこの景色は美しく爽やかで、読了後泣きました。

 

今までディスってきたことへの申し訳なさ、ミステリでは過程がつまらなくても結末で傑作になる作品があることを忘れていた情けなさ、そして何より純愛に涙しました。

 

そう、この作品は作者の純愛が書かせた、本格ミステリメフィスト賞への愛の告白なのでしょう。

 

ミステリのことが好きだけど、その憧れをロジカルな正統派ミステリを書くという形では表せなかった作者。そんな彼が一世一代の大仕掛けだけを引っさげてミステリへの愛を叫ぶ。本作は、そんな不器用な男の、ただの純愛の物語なのだと思います。