偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

北大路公子『すべて忘れて生きていく』感想


週末とか忙しい時にちょびちょびとつまみ読みしてるケメコ。
これまで読んだ本では身も蓋もないダメダメっぷりにただただ爆笑してました。しかし本書では、そうは言ってもやっぱ作家さんなんだよなぁと思わせてくれるような、ある種の「ちゃんとした」部分だったり、泣ける話だったり、エッセイだけでなく掌編小説が入ってたりと、見たことのない面を見せてもらえてケメコさんのことがますます好きになってしまいました......。


本書は色んなとこに書いた文章を集めた4部構成になってます。

第一章の「私は頑張らなくていい」は、ゆるい日常を綴るいつも通りのエッセイなのですが、毎回結論が「頑張らなくてもいいんだよ」みたいなちょっとメッセージっぽくなっててなんか良い話みたいになってるのがむかつきます。あと若い頃の恋愛のエピソードがけっこう具体的に書かれてるのも新鮮。

第二章の「相撲好きにもホドがある」は、タイトル通り相撲にまつわるエッセイなのですが、相撲に全く興味ない私でも相撲っていいもんだなぁと思わされます。特に叔父さんの話とかは普通に泣きそうになったし、泣かせる文章とか書けるのかこの人、と、失礼ですが普段とのギャップに驚きました。

第三章の「呑んで読んで呑まれて読んで」は、日常の話題から本の紹介に入るエッセイ。本の紹介自体はさらっとしつつも魅力的で読みたくなるように描かれていつつ、シメはめちゃくちゃしょーもない日常の雑感だったりして安心します。

そして第四章「奇談集」は、奇妙な味の短い短編「まち」「ともだち」の2篇。
前に別の本で三題噺の掌編を読んだことはありましたがそっちは企画ものという感じで、ガッツリした小説を読むのは初でしたが、これがとても良かった。
どちらも夜の公園の空気感、あるいは怪しいマーケットの空気感が不穏かつ懐かしく、淡々とした語り口も含めて胸がざわざわします。
日常の生活臭のようなものの中にふわっと奇妙なモノが紛れ込んでくるところも良いですね。
そして、寂しさや物悲しさ、平凡な人生への諦念のようなものも感じさせ、一応オチはありつつ落としすぎずに奇妙な夢の中に取り残されるような読後感も素晴らしい。いや、普段ぐうたらエッセイばっか書いてるからこんなに素敵な物語も書ける人だとは思ってなくて、ケメコさんに惚れ直しました。

という感じで、泣ける話、恋バナ(?)、読書家ぶりと小説家ぶりと、今まで読んだエッセイとはまた違った一面を見られて面白かったです。