偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

宇佐美りん『かか』感想

『推し、燃ゆ』の著者のデビュー作。


19歳の浪人生のうーちゃん。かか(母)は傷つき心を病んでアルコールに浸り自傷を繰り返し、そんなかかへの愛情と憎しみとを抱え、うーちゃんは熊野への旅に出る......。


特徴的な文体そのものと、かかへの愛憎が混濁した物語の圧力に圧倒されて一気読みしてしまいました。

作中では「かか弁」と呼ばれる、特定の方言とは違うんだけどなんかめちゃくちゃ訛ってる文体そのものにまずは面食らいました。
この文体そのものが読んでてただ面白く、母から自分に受け継がれた自分たちだけの言語をフォーマットとして使うことで、本作のテーマである母親との強烈な癒着もガシガシと伝わってきます。
最初は文体が特徴的すぎて戦国時代の話かと思ったくらいですが、そこにスマホSNSが出てくるギャップも面白く、主人公が外では標準語で話しているのも生々しくてよかった。

母親への愛憎というのは男である私にも分かるところはありますが、それでも母と娘という関係は母と息子とはまた違うんやろなと思わされました。女であることの絶望とか、熊野へ祈りにいくという行動の突飛さは理解出来ないはずなんだけど読んでいると普通に納得してしまい共感するような気持ちにさえさせられてしまうのが凄いし、SNS周りのことは普通にリアルで共感しちゃう。
無宗教な日本において母親や推しへの気持ちも「信仰」だとする見方は『推し、燃ゆ』にも通じるところがあると思います。

できそこないのかみさまたちは、未成年に酒を飲まして性的暴行を加えるし、クスリでつかまってやかに写真うつりの悪い顔がネットニュースに載ります

この辺とか。

主人公の置かれた状況の閉塞感が凄く、読み終わってもすっきり気持ち良くはならずにどんよりとした後味が残りますが、この分量でめちゃ濃い読書体験ができる稀有な作品で、20歳そこそこでのデビュー作がこれってのはヤバいとしか言いようがないし、これからも著者を追っかけようと思います。