偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

肉体の約束(1975)


殺人で服役中の女性スギョンは、女性看守と共に墓参りのための帰郷を許される。男性不信と自殺願望に取り憑かれているスギョンだったが、道中の列車で出会った青年フンと関係を持ち......。



Blu-rayBox『キム・ギヨン傑作選2』より。
オリジナルは観てない、というか現在日本ではなかなか観れなそうなんですが、『晩秋』という韓国映画のリメイクらしいです。
しかしそこはキム・ギヨンのことで、「ぜってえ原作はこんなんじゃねえだろ!」と思うような変な映画に仕上がっているので堪らんです。

列車内で主人公が男と出会う時間軸を中心にそれより過去や未来が描かれる結構分かりづらい時系列の捻り方がされていて、妙なミステリアスさが出ています。
また登場人物の情緒不安定さも独特で、良い奴っぽい青年が急に性欲の塊になったりするようないたたまれなさにハッとさせられます。
これを時系列を直線的にして、人物も良い人は良い人、悪い人は悪い人と分かりやすくすれば全米が泣くような感動的なメロドラマになりそうなもんですが、そうしないところに奇抜で極端な演出によって人間の生の姿を描き出そうとするようなギヨン監督の矜持を感じます。

ストーリーに関しては色々起こるけど結局は一組の男女が近づいたり離れたりするだけの話でわりと単調ではあるんですが、場面場面で変に印象的なところが多いので長くは感じたけど飽きずに観ていられました。
序盤の主人公スギョンは色んな男たちに騙されるシークエンスからしてあの手この手で騙してくる男たちの醜さが滑稽で空虚な笑いが出てしまいつつ、「男ってのはなんで女を求めながらゴミみたいに捨てるのか」みたいな主人公の独白には男としてドキッとさせられます。
中盤以降では汽車の旅で弁当食べてる牧歌的な風景(ただし1人は自殺志願者)みたいなヘンテコな状況のおかしみと哀愁みたいなのが印象的。人情刑事(デカ)とかも良い味出してたし、看守さんのクールな優しさが沁みる......。また待ち合わせのシーンや列車内で交わるシーンなど夜のシーンには幻想的な雰囲気のものが多くてそれも印象的だったな。
あとなんと言っても、それまでモノローグばかりで声に出してのセリフはほとんどなかった主人公が声を振り絞るラストシーンは凄まじかった。
ちなみに『約束』という1972年の日本映画も元ネタは同じらしいので、そちらも気になります......。