偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

死んでもいい経験(1995)


結婚して5年が経っても子供が出来ないことを夫に責められ離婚することになった主人公。しかし、夫は実はホステスの女と不倫をしていて避妊手術を受けていたという。
一方、主人公が車校で偶然出会った中年の女は事故で息子を亡くしてから夫が疎ましくなっていた。中年の女は主人公に、浮気相手のホステスと邪魔の夫をお互いに殺す交換殺人を持ちかけるが......。



本作は1990年に制作されながら出来が気に入らずに監督が封印していた『天使は悪女になる』という作品を1995年に改題して完成させ、監督の死後の1998年に追悼上映されたといういわくのある作品らしいです。
90年にしろ95年にしろキム・ギヨン監督の最後の作品には違いなく、内容も素人目には悪くない気がしちゃうので生きてるうちに世に出さなくてもったいない気もしちゃいますが......。

とりあえず本作は滑り込みですが唯一の90年台のキム・ギヨン作品で、舞台もこれまでのような田舎町ではなく乾いた都会なので、国は違えど94年生まれの私が子供の頃に見ていたドラマとか2時間サスペンスにも通じる雰囲気があってリアルなノスタルジーを感じました。

冒頭の車校で初心者同士が車ぶつけてなんかめちゃくちゃ喧嘩になるところからしていつもながら謎のハイテンションに笑ってしまうし、スーパーでの泥棒騒動とかもやってることめちゃくちゃなのにすげえ強気で胸糞悪さよりも変な笑いが出てしまいます。全体通しても一時が万事こんな感じで、男と女もキレると水をかけるのが面白すぎる。時代背景が現在に近くなってきたからこそミソジニーの強さに胸糞悪くなるんだけど、同時にそれをあまりにも馬鹿馬鹿しいほどクソに描いているのでどうしても笑いなしには観られなかった......。
復讐劇がわりと前半であっけなく片づいちゃってびびる(そのシーンも凄くて印象的なんですけど)けど、そっから元夫婦と倦怠中年夫婦の「もうお前らさっさと別れろよ」と言いたくなるくらいの愛憎劇がまた良いんですよね......。そこまでして殺したりしなきゃいけないほど相手に執着してるのはもう憎しみでも愛だろと思う。

本作ではこれまでになく性描写が直接的なのも時代を感じさせて面白いんだけど、これだけ直接的になってもイク時は赤い馬がヒヒーンっていう変な暗喩が使われているのも絶妙にアホくさくて笑ってしまう。もう、そこまで生々しくセックスしてるならその馬のやつ要るの!?とびっくりしちゃう。
後半からやたらと夢オチが増えるのは、オマージュってわけでもないだろうけど先日見た「ブルジョワジーの密かな愉しみ」を思い出してにやにやしちゃったし、毒を飲ませるかどうかみたいなところの主人公の駆け引きの下手くそさにも笑うし、何故かホテルにも主人公の家と同じ馬の絵があるのも面白すぎる。あと画家が目玉取られるのくだりが1番意味わからんくて笑ったわ。

最後の方でなんか『火女82』で観たような場面があってからの謎のハッピーエンド(?)(いや、ぜってぇハッピーじゃねえだろ......)まで、もはやどういう気持ちで見たら良いのかわからんようなとにかく全体にヘンテコでワケワカメなんだけど謎の勢いがあってところどころ爆笑しちゃうし全然憎めない変な遺作。これが遺作なのマジで鬼才すぎるでしょ。

というわけで、傑作選BOXのvol.1を全て観たんだけど好きすぎてvol.2も買ったので観ていきます。虫女とか藩金蓮とかも気になるし、タイトルだけ見ると馬鹿狩りが1番気になるし、他の作品もBlu-ray化してほしい〜......。