偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

異魚島(1977)


観光会社の社員のヒョンは、済州島の観光ホテルの宣伝のため、幻の離島・異魚島を探す。この旅に同行した記者のナムソクが異魚島に向かう船から落ちて死亡する。やがて異魚島に着いたヒョンは、ナムソクが島の出身であったことと、彼のこれまでの半生についてを島民たちから聞くことになり......。

キム・ギヨン傑作選Box2より。


男がいなくて巫女がいたりする古い因習の残る島を舞台に、海へと消えた男の謎を探る幻想ミステリーのような趣の作品でありつつ、観光ホテル誘致や公害の問題など社会的なテーマも忍ばせることで一筋縄ではいかない「いったい俺は何を見せられているんだ......?」と思っちゃうような変な映画に仕上がっています。

ナムソクという男を物語の中心に据えつつ、部外者である観光会社社員ヒョン氏を主人公とし、彼が島で聞き込みをしては水に潜るようなぶくぶくっていう場面転換と共に島民たちの記憶の中に潜っていく形での回想シーンが多用され、それによって少しずつ物語の全貌が見えてくるという構成が面白かったです。また、そうして調べていく中で、やがて少しずつヒョンも島に囚われていくようなところにも不気味さがあって良かったです。

ヒロイン的な女性が2人いて、片や子を産むことのできない女、片やナムソクの子を産みたがる水商売の女で、彼女らとヘタレのクソ男ナムソクくんとのあれこれから何かこう、(出産の出来る)女性という存在への畏怖みたいなものとか、それを恐れる男のダメさとかが出ていてすげえ、分かる......って感じでした。

性や生殖にまつわるあれこれと、公害で島の主要産業である漁業が壊滅的になることの二重の行き詰まりがどんよりと重たく未来の見えなさを醸し出していて好きな雰囲気で、そこにときおりSMプレイみたいなのとかヤバすぎる儀式(たぶん全ての男はあの場面直視出来ないと思う)とかエキセントリックな映像が挟まれるという(いつものことながら)ヘンテコな映画。全体にはドロドロした昼ドラみたいな雰囲気もありつつ、怪奇幻想味もあって、そこに社会的なテーマ(そこはそんなに描き込まれはしないけれど)も突っ込んだごった煮みたいな作品でわけわからんけど面白かった。