偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

群衆(1928)


幼少期から将来偉大な男になることを信じて疑わなかったジョニーは青年になりニューヨークへとやってくる。保険会社に就職し、やがて結婚もした彼は、出世して群衆から抜け出すことを夢見るが......。

群衆(字幕版)

群衆(字幕版)

  • エレノア・ボードマン
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何者かになるつもりでいて何者にもなれない男を描いたサイレント映画で、この時代にこんな地味なテーマでここまでの傑作が作られてたんだなぁと驚きました。映画という文化のゆうてもまだ初期の頃に、こんな現実を突きつけるような夢のない映画を撮れたんだ......っていう。

主人公のジョニーは自分は他の奴らとは違うと思い込んでいる傲慢な男で、序盤から他人を見下した態度を崩さず、はっきり言って全然好きになれない主人公なんですね。
結婚前の街を行く道化師を純真な気持ちで馬鹿にするところからして「なんだてめえ死ね!」と思ってしまったし、結婚してからは妻のメアリーへの態度がデカいし子供ができても世話もしようとせず自分も子供みたいなことしててもう、どうしようもないクズ男なんすよね。妻のメアリーを演じるエレノア・ボードマンさんはこの時代よりもう少し後の40年代とかの雰囲気がある美人で、ハッとするほど美しい彼女がジョニーとの暮らしの中で疲弊していく様のいたたまれなさが余計に彼への憤りを増幅してくれます。妻の実家の家族たちのジョニーへの態度もけっこうムカつくけど、ジョニー自身もむかつくのでまぁどっちもどっちというか、言ったれ言ったれくらいの気持ちで見てました。

......ただ、後半である事件が起きてから、どんどんダメになっていく彼を見ているとだんだん哀れにもなってきて、不思議と応援したい気持ちにならなくもないし、橋での息子とのやりとりなんかはグッときてしまいました。
そして、そこら辺から色んな苦労を知って主人公が群衆としての平凡な幸せに満足するようになっていく様は当時としてはバッドエンド的だったのかな?アメリカンドリームに反するし。でも今の価値観で観ると足るを知るという感じでハッピーエンドに感じられるし、まぁ人によって解釈も違うでしょうね。
ただとにかくその複雑な味わいのラストシーンでの演出が印象的で、あのシーンだけでも名作確定という感さえあります。
また、名シーンといえば、序盤でNYの摩天楼の中のとあるビルを下から登っていくように撮り、やがてその中の一つの窓にズームインしていってその中のオフィスで働く主人公を捉えるシーンもまた工夫が凝らされていて「サイレントでこれかぁ」と驚いたし、ここがラストシーンと対になってるのも巧いです。

その他、ともすれば退屈な題材だからこそ、ナイアガラの滝や遊園地、海でのピクニックなど行楽気分で観られるシーンも多くて飽きさせないように作られてるのも好きですね。

とまぁそんな感じで、ある種普通すぎて異色みたいなサイレント期の作品で、地味な内容だからこそ演出のうまさなども際立って面白かったです。