偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

アーネスト・ヘミングウェイ『老人と海』感想

新潮文庫のヨルシカコラボカバーで買っちゃいました。



八十四日間の不漁に見舞われた老漁師サンチアゴは、弟子の少年に見送られてひとり小舟で海へ出る。やがて彼の綱に見たこともないような巨大なカジキがかかる。カジキとの死闘は幾日にも亘って繰り広げられ......。


読書感想文でも定番の名作......ということで勝手に全米が泣いた的な感動のヒューマンドラマを想像していたんですが全然そういう感じではなく、とても静かな、しかしアツいお話で、じわじわと深い感動が湧き上がってくるような読後感がありました。

なんせ登場人物はほぼ主人公の老人サンチアゴだけで、ほぼ彼の呟きと回想だけで成り立っているような作品です。
こないだ会った知らない人が「あんなんジジイの独り言じゃん」と言っていたんですが、そう言ってしまえばまさにその通りの内容。しかしそのジジイの独り言がめちゃ面白い。
若い頃から漁師の仕事をずっとしてきたサンチアゴ。それはたぶん「漁師一筋」とかでもなくてそれしか生き方を知らないというシンプルなものなんだと思います。それだけに彼の言葉は海や魚や鳥などへの敬意や愛情、漁師としての自信のようなものに満ちていてカッコいいんですよね。この自信というのも、傲慢さとかではなく圧倒的な経験値からくる安定感なので彼に惹かれざるを得ない。また、どこか飄々としたユーモアがあるのも好きです。
一方で老いてかつてのように動けなくなった身体への苛立ちも生々しく描かれ、それでも孤独な闘いに身を投じる様もまたかっこいい(というか普通にあれは死ぬでしょ。この老人、不死身すぎる......)。
孤独なと言っても、自然と友達のように付き合う彼の孤独は、いつでもSNSを見ていないと不安な繋がっているのにどんどん寂しくなって行く現代の私たちの孤独とはまるきり別種のもので正直こんな生き方羨ましいなと思っちゃいました。

そんな感じでカジキとの死闘がまずめちゃくちゃ面白いんですけど、本作のキモはそれが終わった後の終盤の展開。カジキとの闘いはまだ「緩」だったんだ......と思わされるくらいの緩急っぷりに驚かされます。
正直私だったらショックで死んじゃいそうな展開なんだけど、それでもめげずに闘い抜く姿にやはり憧れてしまう......。この強さがあればフォロワーがムカつくとか推しに幻滅したとかでうじうじ悩んだりしないんだろうな。素敵だ。