偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』

同い年の書評家ということで気になる存在ではありつつ今まで著作を読んだことがなかった三宅香帆さんですが本書がめっちゃ話題になってたのでついに読みました!


タイトルの通りなぜ働いていると本が読めなくなるのかを考える本なんですが、その過程として明治時代から現在に至るまでの労働と読者の歴史を辿っていく形になっていて、時代時代の労働者にとっての読書の意味の変遷なんかがまとめられていてとても面白く読めました。
序論で『花束みたいな恋をした』で菅田将暉が「おれもうパズドラしか出来ねえんだ......」とか言うシーンが引き合いに出されていますが、私もあのシーンぶっ刺さったので(ちょうど仕事のストレスで死のうとしてた時の少し後に観たので)そんだけで「わかる〜」と思って引き込まれました。この本自体が働きながらでもなんとか読めるくらい読みやすくて面白いのが良かった。
なんつーか、仕事中の考え方と文学とか人文系の考え方にギャップがありすぎて、12時間働いて帰ってきた後に短歌とか笑えるエッセイとかを読もうと思っても正直ちょっと「そういうのは人生舐めてるって考えちゃう」って思ってしまったりするんですよね......。
もちろん働いてると言ったってうちは子供もおらんし時間なんか捻出すればいくらでもあるので、体力がある人に言わせれば「本当に好きなら気力で読める」と言われるかもしれませんが、好きなはずのことを無理やり気力でねじ伏せなきゃいけない時点でおかしい。

ただ本書では労働と読書の歴史と現状が語られた後で、ではどうしたら働きながら本が読めるのかというアンサーも提示されているのが良かったです。まぁ、「それができればそりゃ本読めてるよ!」というものではあるんだけど、その考え方だけでも持っておけば、本が読めるだけじゃなく労働に殺されずに済むのかな、という感じなので、全日本人に読んでほしいです。