偽物の映画館

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メレ山メレ子『こいわずらわしい』感想

以前読んだ『奇貨』というZINEの著者の沙東すずさんが「メレ山メレ子」名義で書いていたエッセイ集で、『奇貨』の前日譚としても読める1冊です。『奇貨』の中でも紹介されていたので気になって読みました。

「恋煩い」と「煩わしい」を掛けたタイトルの通り、恋愛体質でありながらも恋愛を鬱陶しくも思う著者のアンビバレントな恋愛観が、知人の話や自身の話、好きな昆虫などの話題も交えながら描かれていく恋愛エッセイ集です。
『奇貨』は長いこと付き合っていた恋人の浮気によって嫌な別れ方をした恨みの情念で書き上げられた1冊で、それでもそこかしこにやけっぱちのユーモアが溢れていましたが、本作はより穏やかに(?)ユーモアの要素を濃くしたような本で、にやにやしながら気楽に読み進められました。
私自身かつては恋愛にハマってた時期もありましたが結婚してからはもう恋とかめんどくせえことはしたくねえなという感じなので著者のこのアンビバレントな感覚にもある程度は共感できて頷きながら読めたし、共感できるけど自分でそれを言語化するのは出来ないなぁ、という絶妙な言語化センスも凄い、さすが。
中でも「恋愛はエクストリームスポーツである」みたいな言葉が非常に印象的で、確かにあんなハードな競技をみんなやらなきゃいけないみたいな世の中もおかしいわよねぇと思った。

そんでも後半あたりからどんどん著者自身の心情の吐露みたいなのも増えて、最後の方では『奇貨』では手酷い失恋の記録としてボロッカスに書かれる彼との甘い時期のエピソードで終わるので、本書単体で読めばハッピーエンドだけど続編(?)を読んでるとバッドエンドみたいな不思議な読後感が面白かった(なんて言うと失礼ですけど......)。

ともあれ今時はこういう恋愛したいけどしたくないみたいな人も性別問わず多いと思うので、そんな恋愛そのものへの愛憎を抱えた人にはぜひ読んでいただきたいおもしろエッセイでした!