偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ジャック・ケッチャム『隣の家の少女』感想

1965年にインディアナ州で起こった"シルヴィア・ライケンス殺害事件"を基に時代や場所を変えて描かれた、実話に基づく小説。


1950年代、主人公のディヴィッドは12歳。
ある日、隣家に住む親友の母親ルースの元に、事故で両親を亡くした少女メグと妹のスーザンが引き取られて来る。
年上の美少女メグに惹かれるディヴィッドだったが、やがてルースと彼女の3人の息子たちがメグを虐待するようになり......。


胸糞悪いでおなじみの有名作ですが、ほんっっっとに胸糞悪かったです!
この胸糞悪さは、たとえば映画の「セブン」とか「ミスト」みたいなエンタメ的な胸糞悪さではなく、ただただ最悪な出来事を読まされ続けるだけという非常に嫌な胸糞悪さです。
正直、読み終えて気持ちの半分くらいは読んだことを後悔したんですが、もう半分では読んで良かったと思っています。
というのも、本作は実在の事件を基に人間がある程度普遍的に持っているであろう自己中心的な考えや残酷さを炙り出す人間ドラマであり、なおかつ男性中心の社会への批判といった面もある作品なんですよね。
だから、女性はともかく、少なくとも男は読んでおいた方がいい作品だとも思います。けっこう考え方を変えられちゃうくらい衝撃的でした。


実際の事件が基とはいえ、本作はあくまで小説なので、主人公が出て来て一人称で語ったりするわけですが、この主人公のディヴィッドくんにかなりなところ感情移入させられてしまうのがつらいところ。
仄かな恋心のようなものを抱いた少女が嬲られているのを見ても止められない、助けられない、それどころかあるところまでは好奇心に負けて自ら見に行く始末。
始末なんだけど、12歳の少年なんてそんなもんよね、というのがかつて12歳の少年だったことのある私にはよく分かってしまうのでつらいです。
リアルにこんな頃なんて、善悪の判断もなくて周りのノリのが大事やし、性欲のがもっと大事だし......というところで、しかも子供なんて大人の世界では無力でしかないっていう、そういう諸々が分かってしまうだけに彼に感情移入しながら読めてしまうのが恐ろしいです。

一方で拷問を行うルースという女も立ち位置的には悪役ですが、決して諸悪の根源と呼べる存在ではなく、もちろん読みながら「死ね!このクソ野郎〜〜っ!」と思うんだけど、彼女からああなってしまった背景もしっかり描かれているし、現代の目で見れば何らかの精神疾患を持っていることは明らかです。
では諸悪の根源はというと、これはもう"男"なんですよね。
男のために作られた社会、男の性欲、そうしたものが引き起こした悲劇であり、つまりはこれを読んでいる私が真犯人だとも言えるわけで......。
せめてもの救いは本書を読みながら一度も勃起しなかったことくらいですけど。
それでも、読みながらルースへの憎しみと共に何故か罪の意識まで感じてしまう、非常に居心地の悪い読み心地だったのは確かで......。

それでも、本書を読んで少しでも自分が無意識に振るっている暴力を自覚したり他人の痛みを想像できるようになってれば読んだ甲斐はあったのかなと思います。