教師の娘のマリーは、農園主の息子ジャックとともに、産まれたてのロバにバルタザールと名付けて可愛がっていた。
それから10年、労役に使われていたバルタザールはマリーの元へ戻ってくるが、マリーに思いを寄せる不良青年のジェラールに虐められるようになってしまう。やがて留学していたジャックが戻り、マリーにプロポーズをするが......。
スコリモフスキ監督の『E.O』は観たのですが、本作はその元ネタでもあるロベール・ブレッソン監督によるロバを主役に据えた作品。ロバのバルタザールの生涯を追いながら、その周囲で繰り広げられる人間たちの群像劇を映し出していきます。
まずロバっていうチョイスが良いですよね。ロバさんのどこか間の抜けたツラとくりっとして無垢なお目目を見ているだけで癒されます。バルタザールはほんとにただのロバで、その内面が擬人化して描かれたりとかも当然しなくて、ただそのどこか悲しげなと言えなくもない瞳で人間たちの愚行を見つめているだけ......いや、別に人間たちを見つめているわけですらなくただそこにいる感じで映し出されています。
なんだけど、アホ面下げてただ佇むバルタザールと、深刻ぶって愚かなことばかりしている人間たちとをつい見比べて厭世的な気持ちになってしまいます。
人間たちの間では色々とドラマが繰り広げられていくのですが、誰も彼もどんどん悪い方へ向かっていくのがまたしんどくて......。これ見よがしな後味悪い話ではないんだけどぼんやりとした救いのなさが残りました。
人間の出演者たちはみんな役者ではなく素人らしいのですが、みんなすごい印象的でどっからスカウトしてきたんだろうと驚かされます。
特に主人公のマリーを演じるアンヌ・ヴィアゼムスキーさんの存在感がものすごかった。最初はバルタザールを可愛がる無垢な少女なのがやがて不良のジェラールと恋仲になってどんどん擦れていくのが淡々と描かれ、なんであんな男と......とか思っちゃうし、そこに何の感情移入もさせてくれないのが凄かった。無垢な美しさと破滅させられそうなエロさがあって男からするとあまりにも魅力的である。途中でおっちゃんの家に行って勝手にもの食ったりするところのふてぶてしさとかなんか面白い。
そういえば、陰鬱で救いのない映画のわりにそういうちょっとしたユーモアみたいなのも意外と多くてそのギャップも良かったな。「もう2度と酒は飲まない!」と豪語した次のカットで酒飲んでたりというシリアスな中のギャグが良い。ラストにしても、本当に最後の最後のカットは胸を抉られるような切なさがあるんだけど、その直前にはちょっと笑っちゃうような絵面が観られたりと、嫌なだけの映画じゃない抜け感みたいなのが好きでした(そもそもロバが主人公なのが抜け感すぎる......)。
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