偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

plenty『life』感想

フォロワーのサラかえで(さん)とおすすめのアルバムを2枚ずつ紹介して聴き合って話すという遊びをすることになりました。
それで私が勧めたのが、本作と筋肉少女帯『キラキラと輝くもの』。そんなわけでせっかくなのでこの2枚について軽めにブログ書いとこうかなぁと思って書くなり。

life

life

  • アーティスト:plenty
  • Headphone Music Labe
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さて、本作ですが、2004年結成、2009年にCDデビューしたスリーピース(当初は4人組)バンドplentyが2016年にリリースした、彼らの最後のアルバムとなります。
結構好きなバンドだったので解散してしまって残念ではあるんですが、前作『いのちのかたち』と本作『life』が本当に素晴らしい作品なので、なんかまぁこんだけ完成してしまったら解散してもいいよな......というゆらゆら帝国みたいな気分になる、そんくらい良いアルバムなんですこれ!

冒頭の2曲の曲名に顕著なように、このアルバムは夜に独りで聴きたい感じの作品で、その時点でもう私の好みドンピシャなわけなんですね......。
アルバム全体で夜が始まり、更けていって明けるまでみたいなイメージの曲順も最高。
全体に空間を感じさせる響きのあるサウンドで、広大な夜にひとり取り残されたような趣があります。一は全、全は一、じゃないですけど、聴いていると小さな自分と大きな宇宙が接続されるような感覚を味わえます。
ただ、寂しさがベースにありつつも暗い感じはなくむしろ寂しさを寂しいままに愛するような優しい響きがあって、こんなアルバムがラストアルバムであるなんて完璧だよな、と思っちゃいます。別に伝説のバンドとかじゃなく、でも忘れ難く心に残り続けて時々聴きたくなってしまうバンドであることよ。

音としては今までのポップなギターロックサウンドの延長にありながらもR&Bとかダンスミュージック的なアプローチも入ってきて、特に中盤あたりの曲たちにそういう雰囲気が強くて、そのへんが私好みなんですね。まぁなんせサカナクションが音楽的ルーツのひとつにある人間なので......。

あと歌詞もこのアルバムは今までの作品に比べても抽象的かつシンプルで、多くを語らないながらも何か感じさせるものがある......みたいな塩梅が好きですね。

そんな感じで、以下各曲について少しずつ。



1.夜間飛行

アルバム全体の穏やかなトーンからすると異色にも思える重ためのギターリフから始まる1曲目。
1番のヴァースの部分はそんなギターリフに乗せて地面を歩いているような重厚なサウンドなんですが、サビでは浮遊感のあるギターサウンドに変わって「夜間飛行」感が出てくるところが大好き。
そこからヴァースに戻ることなくCメロ、ラスサビへと続く構成も飛んでる感じがして良い(アウトロではイントロに帰ってきますが)。
全体にややシリアスなトーンですが、特に「いのちはユウゲン〜」からのくだりのVo.江沼のミックスボイスが、歌詞も相まってではありつつ声だけでも強烈な切実さで胸に迫ってきます。

なにもいわなくたっていい
ことばは武器にならない

歌詞では、他の曲にも通底する言葉が時に無力だったり虚しかったりすることが歌われるこのへんのフレーズが印象的です。


2.星になって

夜間飛行へ連れ出してくれるような1曲目は1曲目として完璧でしたが、そこから今度はサビ始まりで優しくもキャッチーにアルバムの世界へ引き込んでくれるこの曲は2曲目として完璧だと思う。
歌唱も前曲の切実さから一転して微笑みが透けて見えるような優しい歌声でこれもこれで良い。

歌詞はアルバムタイトルの「life」も連想させる、人生における不沈を受け入れることや死への(恐怖故の?)無双が歌われています。

過去も未来も幾千もの
星になって宇宙を彷徨って
酸いも甘いも今あなたを
あなたの明日をうみだしている

わたしもあなたもいつの日にか
星になって宇宙を流れて
やがて新たな名前をもらうのだろう
そして眩しく輝きつづけるだろう

3.嘘さえもつけない距離で

レディへのクリープみたいな音からはじまる歪みギターなイントロがバリかっこいいです。ベースラインもどこかクリープ感があるし、もしかしてオマージュっぽいかも。
音楽的にかっこいいことやりつつもシンプルに歌モノって感じのグッドメロディのミディアムナンバーで、それだけに正直やや印象は薄かったんですが、今回改めて聴いたらやっぱ良い曲だなぁと再認識いたしました。

言葉とは救いじゃないのさ

わらいあい わらいあおう
嘘さえもつけない距離で
わらいあい わらいあおう
もともとぼくらそうだったのだから

歌詞は言葉よりも確かなものがあるはず、みたいな内容で、SNSで粗悪な言葉に囲まれている私には身につまされる一方でこうやって粗悪な言葉を吐き続けてしまうことへの後ろめたさも感じます。来年からはブログの更新頻度を減らすのが目標!




4.誰も知らない

わりと明るい雰囲気の2曲が続いたところから一転して深夜の物思いを思わせるディープな曲。
ギター弾き語りのように静かに始まり、そこにゆるいカッティングギターとドラムのリムショットが加わり、サビでようやくバンドの音が揃うところの静と動みたいな、静かな緊張感がたまらない。
そして2番では一転して演奏もテクニカルな感じになってバンドのかっこよさを見せつけてきます。
この曲は特にドラムがかっこよくて、2番の「ねむっている淋しさのこと」のとこあたりとか最高ですよね。
終わり方も潔くて、次の曲とのつながりも良いです。

誰が知ろう
今わたしの中に
ねむっている哀しみのこと

という印象的な歌い出しから、言葉にしようとしてもしきれない、「誰も知らぬ」自分だけの心があることを歌い、

誰もがひとりで
所在もなく 行く場所もなく
誰かを想いながら
自分自信を確かめているから

という孤独の大切さを教えてくれるような結末へと至る歌詞も良いですね。




5.born tonight

引き続き静かでやや不穏さのある曲。この曲はベースがディープな感じでかっちょいいっすね。特にBメロがファルセットを駆使した歌唱と重いスラップベースの音で不穏さが強調されていてアルバム中でも異彩を放っている気がします。
あと前の曲に続いてこれも歌始まりで、いきなり歌から入ることでより秘密を打ち明けられるような感じがあって曲調の奇妙さをダメ押ししてる気がします。

歌詞は夜の物思いや日々の繰り返しを描きながら人らしくあることとは?という大きなテーマへと繋がっていく切実さが良いのと、冒頭の部分の「まま」を連ねる音としての気持ちよさも好き。

恋するように生きてゆけるのなら
ぼくもあなたも人らしく在るだろう
心の中の灯を絶やさずにいれば
ぼくもあなたも怯えずに在るだろう

6.laugh

ディープな2曲が続いた後でカラッと明るく爽やかなこの曲が映えます。
3曲続いてこれも歌始まりで、ここでは流れをガラッと変える効果があるように思います。
冒頭からのリバーブがかかったみたいなギターのアルペジオが歌を邪魔しない程度に印象的で、包まれているような安心感があります。また2番のAメロではそれに加えてカッティングギターも入ってきて力強さも出てくるのが良い。
またそれかよと思われそうですが、この曲はちょっとスピッツっぽさもあり好きです(なんにでもスピッツを感じる人)

歌詞は、DNA🧬というミクロの中に無限の広がりを見出しつつ、サビではただ「laugh......laugh......」、笑おう、と繰り返すシンプルさが良いですね。

きいて
あなたとわたしとの
せってん
XとYの
せってん
言葉すらとどかぬ
おおきな真実

ただ人と人がそこにあって関わることの中に言葉すら届かない真実がある。このアルバムで繰り返し歌われる言葉では収まらない何かについての歌でもあります。


7.独りのときのために

ゴリゴリにグルーヴィーながらちょっとコミカルな、歌詞の言葉を借りれば「おどけた」感じもあるイントロの抜け感が良い。
サビ的なパートが「Ah〜」だけだったりとやや実験的な感じの曲です。
アウトロがまた奇抜で、リズム隊がカオスなことになってからそれまでリズム主体だったのがいきなりギターが唸り出して、かと思ばすぐにフェードアウトして......みたいな、変な終わり方なんですよね。好き。

いつの日か 来てしまう 独りのとき
いつまでも もっていよう 胸の中 天国を

この曲調で人間死ぬ時は1人みたいな歌詞なのも面白い......。


8.high&low

前の曲のおどけた感じを引き継ぐようなイントロのシンプルで気の抜けたリフが良いです。
Aメロは「high&low」を繰り返すだけのやはり気の抜けた感じなんですが、サビに向けてだんだんと切実さを増して行くところが好き。イントロからサビまでの飛距離と言いますか。

期待感なんてたいしてないのに
どうしてこんなに焦っているのか
知っていることはたっぷりあるのに
どうしてこんなに虚しくなるんだ

タイトルもそうですが自分の中の相反するものを歌う歌詞は若いころに深夜に物思いに耽りながらハイな気分でロウになったりしてたことを思い出させられます。



9.こころのままに

ある種実験的な曲が続いた後で、ストレートにポップで楽しいこの曲が箸休め的に入ってくるのにホッとします。
これまで箸休め的に聴いていたので正直あんまり印象にはなかったですが、改めてアルバム通して聴くとここにこの曲がある安心感はやっぱ凄い。
歌詞はやはり内省的なものの、

だれのものでもないのさ
あなたのやさしさのまま
ひかるのさ

という結論は曲の開放感も相俟って爽快です。



10.ワンルームダンサー

このアルバム自体めっちゃ好きなんだけど、その中でもこの曲が群を抜いて好き。なんなら全ての知ってる音楽の中でも百本の指に入るくらいには好きです。
タイトルにもダンサーとあるように踊れるディスコナンバーなんですが、いい意味でオシャレになりきらないもったり感があってあんまディスコって感じがしないのが良い。
深夜のメランコリーや夜が明けてしまう儚さをを感じさせつつ、包み込むような優しさもあって、明るいとも暗いとも言い切れず色んな感情が湧きつつ、とにかく鳴ってる音が全て気持ち良い。
ヴァースのドラムの音と、サビのベースのグルーヴ感、そして全編を通して鳴るギターのカッティングが気持ち良い!




11.in silence

静かながらもダンスナンバーだった前の曲のノリの良さから一転してタイトルの通り静かな歌始まりの曲。
1サピまではしんとした部屋で弾き語りをしているようなミニマムな音で、澄んだ空気の中で鳴っているような響きのあるサウンドが美しいです。そして、1番の後で一気に壮大な時間や空間を感じさせるパートに入ってまた静かなのに戻ってくる構成がめちゃくちゃかっこいい。

あおい あおい ねむれぬよるは
かぜにふかれて てつがくをする

というのが歌い出しの歌詞ですが、まさに思索の果てしない広がりと、やがて眠りに就く様を音で描いているようです。

わたしはおさなすぎるよ
それでもいきてみたいよ
あしたも あさっても

という末尾の歌詞が良い。




12.風をめざして

アルバムの最後ですが変にドラマチックになったりしない、いい意味で普通の曲。
こういう変に捻りのないただの良い曲が最後にあることで、夜を抜けて退屈だけど愛おしい日常に帰っていくような穏やかな安心感があります。

負けながらも歩き続けることを
例えるなら 例えるなら
それは何に似ているだろう

何処へゆこう 何処へゆこう
背負いこんだ過去と共に
様々な、楽しい 苦しいことがあるだろう

届きそうで 届かない
風をめざして

こういう、果てしない人生を生きていこうみたいな歌が結果的にバンドの最後のアルバムの最後の曲であることに美しさを感じざるを得ません......。悲しいけど。