偽物の映画館

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スピッツ『名前をつけてやる』今更感想


1991年11月、デビュー作である前作『スピッツ』からわずか8ヶ月でリリースされたセカンドアルバムです。

名前をつけてやる

名前をつけてやる

  • アーティスト:スピッツ
  • 発売日: 2002/10/16
  • メディア: CD


前作が青にヒトデというジャケ写だったのに対し、本作は赤で猫。
特に初期における草野マサムネの創作テーマである「死とセックス」のそれぞれを、この2枚のジャケが象徴しているようであり、寒々とした虚しさのあった前作に対して本作は生々しい虚しさを感じるような気もして、この2作品は対になってるんじゃないかと思ったりします。

んで、本作はサウンド的には本人曰く「ライド歌謡」。シューゲイザー御三家のライドというバンドにスピッツらしい歌謡曲感を融合させたいい違和感のある作品で、ほぼ全編にわたって歪みまくったサウンドが楽しい一枚です。
とか言ってみたけどシューゲイザーってのが何なのかも分かるような分かんないようなにわか音楽ファンなのでこれ以上難しいことは分かりません。

歌詞は上に書いたように本作では「セックス」要素が特に濃くなっているような気がして、一曲目の「ウサギのバイク」からしてそうだし、スピッツ三大名曲(と私が思ってる)の一つである「プール」もモロにセックスの歌です。えちえちです。

しかし、ラストの2曲がなんとも爽やかな感じなので、最後まで聴くと全体的な気持ち悪さが中和されていい話だったなぁ......と思ってしまうあたり、変態なのに国民的バンドになってしまった後のスピッツの下地がありますね(適当)。

では以下各曲の感想を......。




1.ウサギのバイク

ロビンソンに比べるとまだインパクトに欠ける、でもじわじわと染み入ってくるようなアルペジオのイントロからはじまり、それこそ脈拍のようなリズムを刻むドラムに連れられて草野マサムネが歌い出す......かと思いきや、歌い出しはするけど歌詞のないスキャット
意味深なタイトルの意味を明かさぬまま、ららららとぅとぅとぅとぅ......と焦らしてきます。
そして短い間奏を挟んでようやく歌詞が登場。


全体としては「ウサギのバイクで逃げ出そう」と言っているように逃避行のイメージのある曲ですが、やけにファンタジックな描かれ方をしているので逃避行自体が妄想とか机上の空論的に感じられて、実際には現状から抜け出せない諦念のようなものも感じます。

また、

脈拍のおかしなリズム
喜びにあふれながら ほら

というあたりは性的なイメージも内包していて、逃避行の風景とセックスの風景がオーバーラップする、可愛く見えてなかなか異様な歌詞です。

あと、ラストのサビでだけ女性のコーラスが入るんですが、それがまた絶妙にエロい。「ヘチマの花」とか「ハートが帰らない」とか、女性コーラス入る曲いいですよね。


ちなみに私はバイクにも車にも詳しくないんですけど、調べるとラビットスクーターってのがあるらしくって、ウサギのバイクってのはそれのことなのかな、と。
逃避行には似つかわしくない可愛いバイクですが、そういう違和感の面白さがスピッツ




2.日曜日

のどかそうなタイトルとは裏腹のハードなロックサウンドが魅力的な曲。
中学生の頃なんかはもう激しいの大好きなので1000回くらい聴いてましたね。それから大学の友達がカラオケでよく歌っていたのを思い出したり。

この曲もまた歌詞がメルヘンチックでファンタジックで摩訶不思議でわけわかめ
しかしわけわからないながらも普通では思いつかない言葉の並べ方そのものがワンダーです。
「戦車」と「日曜日」、「鬼」と「うたたね」、「女神」と「カラス」のように、甘辛ミックスじゃないけどなんとなく対照的なイメージの単語が連ねられていることでいい違和感が生まれています。

そして、よく読むとなんだかエロいことを言ってそうな感じだけはよく分かるという......w

B'zの『今宵月の見える丘に』とかでもセックスを自然の風景に見立てたりしてますが、あんな感じ。幻の森とか、エロそう。

あと、

色白 女神のなぐさめのうたよりも
ホラ吹きカラスの話に魅かれたから

というへそ曲がり具合がマサムネちゃん可愛いですよね。




3.名前をつけてやる

アルバム表題曲で、スピッツ屈指の悶々ソングですね。

イントロからしてなんとなく気の抜けたサウンドで、Aメロの歪んだカッティングが普通ならかっこいいはずなのに(いや、かっこよくもあるけど)なんか間が抜けて聴こえてしまうのが凄い。

んで歌い出してみると歌い方もまた気の抜けた感じで、私が熱血教師なら校庭3周させてるくらい腑抜けててやる気を感じません。
サビの終わりの「あ〜〜あ〜〜あーあーあっあ〜」のとこ、なんか投げやりで好き。
空間に広がっていくようにぽわ〜んと響くアウトロも良いですね。

歌詞はそう、悶々ソング。

欲望を持て余してやり場のない感じが、しかし切迫しつつも気怠く間の抜けた絶妙に分かりみが深く描かれていて良いですね。

「名もない小さな街の 名もないぬかるんだ通りで」という一言目の舞台設定からしてもう普遍的でありつつ異世界っぽくもある、奇妙な世界に迷い込んでしまったような感覚にさせてくれるから凄い。

くだらない駄ジャレ、まぬけなあくび、回転木馬回らずくす玉割れずといった爆発しそうでしきらない感じがリアル。

あと、歌詞の中で一人称も二人称も使われていないのも印象的で、僕とも君とも言わないことで、「名前をつけてやる」とイキがる語り手の自意識がより濃く現れているような気がします。

「名前をつけてやる」というのが何に対してなのか、欲望になのか、2人の関係になのか、その辺の草花になのか、ちんちんになのか......なんなのか分かんないけど、馬鹿げてて可愛らしくもありやるせなさもある絶妙なタイトルフレーズですね。




4.鈴虫を飼う

これもまた前曲に輪をかけて呑気な感じの音色。
なんというか、歌詞にも引っ張られてるけど生活感がありすぎて、質素とか貧相とかみすぼらしいとかいう形容しか出てこない、でもそんなマイナスにしかならなそうな感想がスピッツのこのアルバムにおいては正解でしかないのが凄いですよね。ほんと異色のアルバムだと思います。
そんでもうゆったりしてるんでちょっと聴いてて眠くなっちゃいそうなんですが、歌詞に滲み出る諦念のようなものが怖いくらいヒリヒリ迫ってきて安眠は出来ないっすね。

「天使から10個預かって」という冒頭のワンフレーズだけでもう、天使って何?鈴虫って「個」なの?なんで10個?預かる?後で返すの?みたいに疑問だらけになっちゃうのでズルい。

「ゆめうつつの部屋」という表現の、なんつーか、四畳半の狭い部屋それ自体がぼや〜っと霞んでいくような幻想的な感じ。
それに対して、「乗り換えする駅で汚れた便器に腰かがめ」「油で黒ずんだ 舗道に へばりついたガムのように」といった非常に現実的で小汚い感じの対比。
現実社会の生活においてどこか現実感がなくて、部屋に帰ってきて幻聴のような鈴虫の鳴き声を聴いてるみたいな、世界への馴染めなさの感覚が色濃く感じられて良いですね。

慣らされていく日々にだらしなく笑う俺もいて

つらい。




5.ミーコとギター

一転、ワウワウしたギターが激しく唸る、テンション上がるカッケェ曲。ワウワウしたカッティングがカッコいい。
ちょっとカオスなくらい全体にギターにエフェクトかかりまくってる中で間奏のギターソロだけはハッキリしてるのも良いっす。歌えるギターソロ。

しかしサウンドにも増してカオスなのが歌詞ですよね。
ファンの間でも諸説ありつつ近親相姦説なんかが主流で、そう考えると父親に犯される好きな女の子をオカズにオナニーしてるみたいな救いようのないお話な気がしちゃいますが、それをさらっと聴かせちゃうのがほんと怖いっすよね。
まぁ、あえて解釈せずとも、言葉の並びの不条理さ、語法としてはおかしくないのに内容がトチ狂ってる感覚だけでも面白くも不気味で、よく分からないながらにこんな怖い曲書いてる人のファンでいたらいけないかもしれない......と、中学生の純粋な頃にスピッツファンをやめようとしたきっかけの一曲でもあります。




6.プール

鈴のような音が祝祭のようにシャンシャンと鳴り響き、ベースは結構動き回ってて、ギターの音はぼんやりと広い空間に響くような感じで、スピッツの曲の中でも特に、イントロからしてその世界観に引き摺り込まれてしまう曲です。
このシャラシャラって音、なんつーか、夏の曲だけどクリスマスっぽさもあって、なんか夏と冬が同時に来てしまったみたいな奇妙な感覚にさせられます。私だけかもしれんけど。

浮遊感と倦怠感、このアルバムでも特に白昼夢のような雰囲気。
休みの日の午後2時くらいの、太陽が真上にあって世界が全て照らし出されてしまって、そのあまりの明るさに全てのものが偽物みたいに感じられてしまうような、そんな時間帯に聴きたくなる曲ですね。

そして、歌詞は全編モロにセックス!

君に会えた 夏蜘蛛になった

という一言目からして、4本ずつの手脚を絡み合わせる2人を八本脚の蜘蛛に喩えたエロい描写。
好きな作家のとある小説にも同じ比喩が使われていて、スピッツファンなのか、たまたま同じセンスなのか......とちょっと気になったりしてます。

いちいち挙げてるとキリがないですが、その後も直接的な言葉は一切使わず全編暗喩によって情事が描かれます。
比喩による描写の浮世離れした美しさと、内容の生々しさとのギャップが白昼夢のような、あるいはタイトルからの連想で水の中にでもいるかのような不思議な心地にさせてくれます。

でこぼこ野原を 静かに日は照らす

というところの事後感と、そっから気怠い間奏がはじまるのが巧いっすねぇ。エロいっすねぇ......。




7.胸に咲いた黄色い花

すみません、この曲は私の中でわりと存在感薄いというか......。ポップだし聴き心地いいんですけど、特に印象には残らないかな......という感じで。

そんでも今回改めて聴いてやっぱ歌詞良いなぁ、と。

月の光 差し込む部屋
きのうまでの砂漠の一人遊び
胸に咲いた黄色い花 君の心宿した花

きっと、黄色い花というのは君そのものではなく君への恋心のことで、結局のところ君は現実世界では僕のそばにはいないんですよね。

3番の同じくAメロで

明日になればこの幻も終わる

ときのうと明日で対比されてて、ここを見るに「君」は夢の中の人とかそんなところなんじゃないかなと。

なんにしろ、可愛らしくストレートなラブソングでもありつつ、その対象はおそらく夢や妄想の中の君でしかないというところがなんとも言えませんね。




8.待ちあわせ

地味な前曲からの、サイケ感もありつつ激しくパンクっぽい速い曲でハッと目が覚めます。

シンプルなリズムに乗せて、パンクらしく(?)、「だけど」という否定形から入る歌詞も面白い。
しかしギターの音はめちゃくちゃ歪んでるから爽快感よりも不穏さをやはり感じてしまうあたりこのアルバムらしいですね。
間奏とかアウトロのサウンドがもう最高っすよね。ぎゅうぃうぃ〜んみたいな。

歌詞はなんというか、運命の相手だと思ってたのは僕だけだったの系失恋ソングとでも言いましょうか。
「待ち合わせの星」「百万年前に約束した場所」といった運命を感じさせる壮大な言葉が、しかし君が来ないことで不発に終わって切なくも痛い思い込みでしかなくなってしまうのが拗らせてますね。
曲の終わりの「あーあーあー」というぼやきみたいな声を聴くと、来ないならこつちから行くような根性もなくただうじうじしてるだけみたいな情けなさも感じて、気持ち悪くも好きですね。




9.あわ

前曲のカオスなアウトロがぷつっと途切れて、ゆったりしてちょっとジャジーなこの曲のイントロがはじまる繋ぎが良いっすね。

動き回るベースに、のほほんとした気怠さのあるギター、Aメロのそれこそ泡っぽい「ほわわ〜ん」って音も凄い好き。
そして、歌い方がスピッツ史上でも屈指の気持ち悪さ。
「ほんとうはさか〜さま」のとことか、「かぁぜのなか」「だぁいすきさ」のとことか、キモいっすね。
別に寄せてるわけじゃないとは思うけど、歌い方といい、のほほんとしつつも不穏な感じといい、タイトルが平仮名なのも、どことなく「たま」っぽさがあると思ってます。

こっそりみんな聞いちゃったよ
本当はさかさまだってさ

という冒頭一言目からしてヤバい。このフレーズで始まる歌が名曲じゃないはずがないですよね。
世界に対して馴染めない感覚というか、「五千光年の夢」の「全てが嘘だったと分かった」あたりにも通じる現実に対する現実感のなさのような感覚はわかりみが深いです。
きっと、この「さかさま」感覚がとりわけ強い人だけが詩というものを生み出せるんでしょう。

何を言ってるのかはさっぱり分からないながらも、ショーユのシミや畳のにおいといった、ある種貧乏くさいような表現と、「機関銃を持ち出して飛行船を追いかけた」が共存する世界観が独特で好き。
「でんでででっかいお尻が大好きだ」なんてのが本当に歌詞なのかよ!と思ったり。まぁでも気持ちは分かるよ。

そして、1分20秒ほどもある長〜いアウトロがまた良いんです。一旦終わったと見せかけて戻ってくる感じとか。




10.恋のうた

「お〜〜〜さ〜〜〜え〜〜〜」という歌始まりが印象的な一曲。

インディーズ時代からある曲で、スピッツブルーハーツの二番煎じから脱却するターニングポイントになった曲だそうです。
陽気なリズム、ポップなメロディー、純真な歌声、わりとストレートな歌詞......と、このアルバムの中にあって素直で毒気のない曲で、ラス2の位置に置かれるとすぅ〜っと沁みるんですよね。
間奏の終わりのベースがサザエさんのエンディングのオマージュになってて、ライブ版だとそのフレーズをキーボードで弾いてたから余計「サザエさんだ......」ってなります。

あと、これandymoriがカバーしてるのがライブビデオに入ってて、andymoriバージョンもめちゃくちゃ良いんですよね。

https://youtu.be/et4w_tXeKE8

小山田壮平の上手くはないけどまっすぐな歌声が曲に合ってて。私はいつもカラオケでこの曲歌うときに小山田感を出してしまいます。草野マサムネのつもりでなんて畏れ多いですからね…(小山田くんに失礼)。

歌詞については、まぁところどころ意味深な描写はあるものの、この曲に関してはあまり深読みする気にならないですね。素直に優しいラブソングとして聴きたい。

君と出会えたことを僕
ずっと大事にしたいから
僕がこの世に生まれて来たワケに
したいから

もうすぐ結婚する(予定)ので、この辺とかもう沁みますね。沁み沁み。




11.魔女旅に出る

この曲は小さい頃に親の車で流れてた「CYCLE HITS」の青盤で聴いてて、「夏の魔物」で会いたかった〜会いたかった〜会いたかった〜と盛り上がってからこの曲の心地よさに寝るという鉄板コースをやってました。

アルバムで聴くと、「恋のうた」にも増して異色の曲で、ここまでギター歪みまくりのシューゲイザーっぽいアルバムだったのに最後でオーケストラの入った王道J POPになるのでびっくり。
とはいえ、「恋のうた」でワンクッション置いてるので通して聴くとそこまで違和感はないですけどね。

最初はわりと地味でシンプルな感じから、徐々にストリングスとかの音が増えていって最後の方にかけて壮大になっていくのはほんとにポップ。
でも曲そのものがシンプルなので、鬱陶しいほど壮大にはならないあたりも良いバランス。
あと今改めて聴くとベースもめちゃくちゃ動いててカッコよかったりします。

ちなみにオーケストラの編曲は長谷川智樹先生。私の大好きなドレスコーズというバンドの編曲にも関わってる人です(志磨遼平は絶対スピッツ大好きだと思う)。
そしてこれが次作『オーロラになれなかった人のために』にも繋がるわけですね。

あと、最近だと将棋の藤井先生が長考の末好きな曲に上げたことでも話題になりました。
藤井先生ありがとう😊

歌詞はというと、細かいフレーズは相変わらずわけわからないながらも、「旅立つ君を見送る」という非常にシンプルな内容。

ここまで身も蓋もない言い方をすればエロい妄想みたいな歌詞の曲が並んでいたのに対して随分と大人になった印象ですが、それがこのキモい曲多めのアルバムのエンディングとしてはすっきりした余韻を残してくれていい感じ。
とはいえ、あくまでも旅に出るのは君の方で僕はここに留まるしかない......というやるせなさも漂わせていて。
私はいつも残される側なので、なかなか迫るものがあったり。

今 ガラスの星が消えても
空高く書いた文字
いつか君を照らすだろう

というところがなんか好きです。