偽物の映画館

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中西鼎『放課後の宇宙ラテ』感想

『東京湾の向こうにある世界は、すべて造り物だと思う』 の中西鼎先生による新潮nexからの2作目です。


放課後の宇宙ラテ (新潮文庫)

放課後の宇宙ラテ (新潮文庫)

  • 作者:中西 鼎
  • 発売日: 2020/10/28
  • メディア: 文庫


中学時代、超常現象に入れ込んで"宇宙人"と呼ばれいじめられていた圭太郎。
高校では普通の人になろうと決意するが、幼馴染の未想、超能力者だと噂される転校生の曖とともに廃部となった"数理研究会"を復活させることに。
曖がかつて体験した"存在しない夏休み"の謎を追ううち、彼らは世界の秘密に近づいていき......。



前作は実在のバンド名や曲名がたくさん出てくるエモエモ青春恋愛音楽ゴーストストーリーでした。
一方の今作は、バンドの代わりに超常現象超能力宇宙人UMA中二病といったモチーフが散りばめられていて、そのためか、よりライトな雰囲気になっている印象です。
ただ、『青春』という大テーマは変わらず、なよっとした男と可愛い女の子との恋とも友情ともつかない関係が描かれるあたりは同じ。
個人的に前作が刺さりすぎたせいで今作はやや物足りなかったものの、前作が好きなら確実に楽しめる作品だとは思います。


全体としての大きな魅力は、いい意味で「本筋」というものが見えづらく、先の展開がまるっきり読めないこと。

一応、曖の姉の謎というのがあるものの、それがそんなに前面に押し出されずに、少し不思議な(非)日常エピソードが色々と積み重ねられていく構成になっています。
さらには終盤では笑えばいいのか呆れるべきなのかというヘンテコな展開になりつつ、しかし結末が近づくにつれどんどんエモさが増していくのは、さすがはエモの魔術師。
よく分からないまま進み、よく分からない終わり方をする物語は、しかしはっきりと青春の美しさを描き出していて、前作同様懐かしさと憧れが相半ばする読み心地を楽しめました。
また、敵対する大人のキャラが青春を失った私に重なって、余計に主人公たちの眩しさが際立ちましたね。はい。

SFとしては、緻密な設定とかワンダーとかは弱めで、どっちかというと「少し不思議」の雰囲気を味わうもの。あくまでSF風味の青春小説って感じですね。

結末は、個人的には(ネタバレ→)甘すぎてちょっと物足りないところはありつつも、まぁこのタイトルだしこの作風だしこれくらいがちょうどいい気もしますね。

まぁ、ともあれとても面白かったです。サラッと読めるのにエモいのは良いですね。次はどうくるのか楽しみです。