偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

アレン・エスケンス『たとえ天が墜ちようとも』感想

『償いの雪が降る』の著者の、邦訳としては2作目の長編です。


住宅地の路地で発見された女性の他殺体。
刑事のマックス・ルパートは、自身と因縁のある被害者の夫ベンを疑う。
一方、マックスの親友のボーディ・サンデンは、ベンの依頼で彼の弁護に立つことになり......。


というわけで、前作で既にファンになってたんですが、今作もやはり面白かったです。

青春小説風味の強かった前作に対し、今回は前作で脇を固めた大人たち2人が主役になる重厚な人間ドラマ。
しかし法廷サスペンスの側面もあるので、サラッと読めるスピード感もあります。

とりあえず、ミステリーとしては今回も捻りは少なめ。法廷でのやり取りでちょいちょい「なぁるほど」と思わされる分、前作よりは知的ゲームとしても楽しめましたが。

でもお話としてはめちゃくちゃ良いんですよね。
親友同士の2人が敵対することになるっていうのがもうエモいっすからね。
冒頭、2人の関係に亀裂が入る場面から始まり、回想する形で本編に入るので、常に友情が打ち砕かれてしまうヒリヒリ感を感じながら読むことになります。
また、それぞれに背負う過去もあり、現在の事件によってそれに向き合うことになるという葛藤も2人分描かれてお腹いっぱい。
そして、そんな2人の視点を交互に読むことで、読者もまた両方に肩入れしつつ、何が正しいのか?という難問にぶち当たります。
タイトルの「たとえ天が墜ちようとも」という言葉の意味が、2人の主人公に、そして読者にも突きつけられるんですね。

また、前作のヒロインであるライラちゃんもちょい役でカメオ出演して元気な姿を見せてくれるのも嬉しいところ。ジョー君も出ては来ないけど元気そうで何よりです。

クライマックスのシーンはなんとなく前作もこんなような感じだった気がしつつ(アメリカの映画とかってだいたいこんな感じよね)、裁判の緊迫感とはまた違うハラハラがあるし、あのなんとも言えん結末も、忘れ難い余韻を残してくれます。

惜しいのは、警察の捜査が杜撰なのと、そのせいで裁判が五分五分に見えないこと。ちょっとそのへんで人間ドラマを優先しすぎてるきらいはあるかと思います。


まぁでもなんにしろ本作でますます著者のファンになってしまいました。
日本で2冊目である本書が刊行されたことを考えると、この先もまだまだ邦訳が出そうな気はするし、楽しみに待ちたいと思います。