偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

スピッツ「子グマ!子グマ!」を聴いた男

 私、小説や映画と並んで音楽も好きなのですが、中学時代の音楽の成績は1、良くても2でした(5段階評価)。で、ギターとベースの聴き分けも自信無いくらい音楽的素養に乏しいため、今まで音楽に関してはレビューとか一切書いたことがありませんでした。


でもまぁせっかくブログ始めたし、どうせほとんど誰も読んでないと思えば的外れでも何でも気楽に放言できるのでこの機会に、一番思い入れの強いバンド・スピッツの、最新アルバム『醒めない』より、今スピッツで一番好きなこの曲についてだらだらと呟いてみます。誰も読んでない気楽さよ〜万歳!

 

 

 

醒めない(初回限定盤)(DVD付)

醒めない(初回限定盤)(DVD付)

 

 

 

 

ってわけで、この曲、ええ、最初にタイトル見たときはびっくりしましたよ。「子グマ!子グマ!」て!50のおっさんが何を!でもそれが許されちゃうのがスピッツ〜そしてこんなタイトルでどちゃくそ切ない曲に仕上げてくるあたりがスピッツ〜。

 

アルバムを買った時に、 どんな曲かと一番楽しみにして聴いたのですが、初聴のイントロからしてやられました。

あ、言っときますけど音楽的素養ないので音の面に関してはテキトー書きますね。

えー、このイントロ、なんとなくの印象で言うと、80年代くらいの洋楽の影響を受けてオシャレミュージックをやっている最近の日本の若手ロックバンド......みたいな感じです。大ベテランなのに音に若返りが見える!!

軽妙でダンサブル、キメッキメの演奏、でもなんか切なさがあって、懐かしいけど新しい。少なくとも今までのスピッツにはなかった雰囲気の音です。でももちろんスピッツらしさの軸はブレず......。要は、イントロからして一耳惚れ。

 

そして、歌の入りがこう。

 

はぐれたら 二度と会えない覚悟は
つらいけど 頭の片隅にいた

 

 細かい状況は分かりませんが、最初っからストレートに誰かとの別れの歌だと言うことは伝わってきます。

先に言ってしまうと、恐らくこの曲を最も妥当に解釈するなら「巣立っていく子供を送り出す親の歌」ではないでしょうか。子グマというタイトルは端的にそのことを表しているように見えますし、女性のコーラス(Czecho No Republicのタカハシマイさん、綺麗な声です......)がフィーチャーされているのも、父親と母親を表しているのかなぁ、という感じがしますね。

とはいえ、リスナーの想像を単一の解釈に固定しないのがスピッツの歌詞のすごさでありまして......。状況を限定しすぎない普遍的な表現によって親子の歌にも失恋の歌にも読める懐の広さを持たせています。

そして、私は親になったことはありませんが、失恋なら得意なので、以下ではこの歌を主に失恋ソングと捉えてみていきたいと思います。

......で、次のフレーズがこれ。

 

半分こにした 白い熱い中華まん 頬張る顔が好き

 

そう、いきなりこういう具体的なディテールを持ち出してくることで一気にリアリティを持たせて共感させてきますね。

連想される季節は冬ですよね。冬。寒さや寂しさといった失恋らしいイメージがある一方、中華まんやコタツなど暖めてくれるもののイメージもある季節ですね。

シチュエーションのセレクトも絶妙。半分こにした中華まんをふーふーしながら頬張るなんて、子供とか彼女とか誰でも自分にとって特別な人がやれば可愛いに決まってます!具体的でありながらやはり誰が聴いても普遍的に「ぐわ〜っ!」と胸を締め付けられる名文ですよ。あなたの大切な人、あるいはイマジナリー・ガールフレンドを思い浮かべて「ぐわ〜っ!」しちゃいましょう。

で、サビに入ります。

 

喜びの温度はまだ 心にあるから
君が駆け出す時 笑っていられそう

 

 ぶいぶい〜と踊ってるようなベースにノリながらも切ねえぇ〜キラーフレーズです。

中華まんを一緒に食べるようななんてことない暖かい思い出が"喜びの温度"なんでしょうね。

さっきの中華まんのくだりで、頬張る顔が「好きだった」ではなく「好き」となっているところや、喜びの温度がまだ残っていることから、中華まんのくだりと「君が駆け出」してしまう場面の間に時間的な隔たりがあまりないようにも思えます。もしかしたら、中華まんを食べながら別れを切り出されたのかも知れません。というか、それって切なくて良くない?っていう、個人的趣味による解釈です。

 

トロフィーなど いらないからこっそり褒めて

それだけで あと90年は生きられる

 

 客観的な評価なんかどうでもいいから君に褒められたい。「モテたいぜ君にだけに」的なやつですね。

90年ってのも絶妙ですね。100年と言わないところが謙虚に見えますが、冷静に考えなくてもあと90年だって無理でしょう。今20歳だとしても、あと90年生きたら日本で最高齢とかですよ。でもたぶん「100年は無理でも90年ならイケる」って思ってるんでしょう。そんな謙虚に見せかけて思いっきり恋愛に酔って頭悪くなってる感じが良いですね。

 

仕事じゃなく 少しサイケな夜 バイバイ僕の分身

 

 ここだけちょっと自分の中でしっくりくる解釈が思いつきませんが、

「仕事じゃなく」=プライベート=君と会ってる時間?

「サイケな」=現実感のなさ?

で、「バイバイ僕の分身」ときたら、君に別れを切り出されて現実感を失うような感覚に陥った......というような意味合いかもしれません。

そうすると、中華まん食べながらフラれる説は却下になってしまいますけどね。

 

幸せになってな ただ幸せになってな
あの日の涙が ネタになるくらいに

間違ったっていいのにほら こだわりが過ぎて 君がコケないように 僕は祈るのだ

 

 こだわりが強く、理想を追いかけすぎてしまって傷つくことも多そうな君がコケずに幸せになってくれることを祈っているというフレーズ。ここからなんとなく、夢を追いかけるために僕を追いて遠くへ行ってしまう君の背中を見送っている感じがしますね。別れの理由なんてのは色々あると思いますが、そういう前向きな理由だからこそ、「幸せになってな」とか「笑っていられそう」なんて言えるのではないかなぁ......と。

そしてこの夢追い解釈をするとこの先の歌詞もわりとすんなり解釈出来るような気がするのです。

それに他の男にとられた説なんてつらすぎて考えたくないですしね(笑)。

そして、この後曲調がそれまでのオシャレミュージックから急にメタル感を強めてきます。オシャレだけど間奏でハードになる感じは[Alexandros]とかを連想しちゃいました。やっぱスピッツ流のイマドキロックな曲だと思います。

で、そのハードな音に乗せてついにタイトルのフレーズが登場します。

 

子グマ!子グマ!荒野の子グマ
おいでおいでするやつ 構わず走れ
子グマ!子グマ!逃げろよ子グマ
暗闇抜けて もう少しだ

 

 甘辛ミックス!ハードな音と童謡「森のクマさん」みたいな歌詞とのギャップ萌え!シレッとこういうことしてくるからスピッツさんニクいねぇ。

で、この部分の歌詞ですが、森のクマさんとは逆で、「君」を「子グマ」に例えて、「おいでおいでするやつ」=僕からお逃げなさいと言っています。

僕はまだ、ついおいでおいでするような未練がましいことを考えてしまうけれど、そんなことは気にせずに君の行きたいところへ行ってほしい......そんな悲痛な気持ちが込められています。

「子グマ」というワードのチョイスは、まず単純に君を可愛く思っていることの表れでキュートな動物にしてるんでしょう。また、それとは別に、「子グマ」には庇護したくなるような弱さが感じられますが、大きくなったクマは強いイメージ、立派なイメージがあります。今は頼りない君だけど、ここから飛び立って立派なクマさんになってくれ......というエールも込められているのではないでしょうか。

 

いっぱい並べた 夢・希望・諸々
バイバイ僕の分身

 

 そう考えると、夢や希望や諸々を並べたのは君でしょうか。

君が僕に夢を語るたびに、応援したい気持ちと君が遠くに行ってしまうような不安とがあったのでしょう。そしてついに、バイバイする時が来てしまったのです......。

 

喜びの温度はまだ 心にあるから
君が駆け出す時 笑っていられそう

 惜しかった思い出も 感動的に刻むから
君が遠くなっても 笑っていられそう

 

 前半は一番のサビの繰り返しですが、ここに来てより感慨深く聞こえます。「駆け出す」という言葉も最初はただ別れることを意味していると思っていましたが、2回目の今回は夢に向かって駆け出していく様が明確に想起されます。

そして後半。これもいいですね。「惜しかった思い出」が具体的になんなのかは想像に任されるところでしょう。君に言いたいことを言えなかったことかもしれませんし、もっとしょうもなく「ケーキ屋さんに行ったら定休日だった」みたいなありふれたカッコつかない惜しさかもしれません。或いは「あの時キスしてればよかった!」みたいな下世話なやつの可能性も......?

なんにしても、そんな惜しかったことも、感動的な思い出として心に刻んで、君が遠くなってもその思い出を胸に笑って送り出せるよという、僕の強さが見て取れます。いやぁ、こんなことなかなか思えないよ。こいつはすげえ奴だよ。

 と思っていると、最後の一文にやられます。

 

 強がっていられそう

 

そう!そらそうよ!泣きたいに決まってるけど、君をちゃんと送り出すために強がって笑ってるんですね。はあぁ〜泣けます。

なんというか、これまでのスピッツの歌詞って、抽象的でよくわからない前衛アートみたいなイメージのものが多かった気がして。誰か有名な歌手がスピッツの曲をカバーした時にも「歌詞が支離滅裂で覚えるのが大変だった」みたいなことを言ったらしいですが(誰かも言った内容もすごくうろ覚えですが......)、この曲に関しては、奥の深さはもちろんありつつもかなり分かりやすく感動させてくれるエンタメ寄りな作品だと思います。

そして、そのエンタメ感をラスト1行でだめ押ししてくるのです。だってこれフィニッシングストロークやん。

ぶっちゃけスピッツの他の曲の歌詞解釈なんて手強すぎて全然書けませんが、この曲について(曲がりなりにも)ちゃんと書けたのは、この分かりやすさのおかげだと思います。普段の作風が芥川賞ならこれは直木賞、みたいな(?)。

そして、こんだけ分かりやすい技巧を使いこなしてくるあたり、やっぱり草野マサムネはすげえ......っていう、要はそれだけ言いたくてこんなに長々と書いてしまいましたが、はい、草野マサムネはすげえですよ。

 

 

 

今年30周年を迎え、新曲3曲入りの3枚組シングルコレクションを発表したスピッツ。新曲最高でした。そして7/12には名古屋にライブしに来てくださるので私も見にいきます。楽しみ〜。

とまぁ、やっぱりまだまだ醒めないですね。今後の活動も楽しみにしてます。

スピッツさん、30周年おめでとうございます㊗️🎉🎊🍾㊗️

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい、ここからは完全な余談の自分語りですが、私ってフラれると荒れに荒れて相手の見てる前で泣き言言ったり悪口言ったりする、一言で言えばゴミ野郎なんですよ。

この曲を聴いて以降2回フラれたんですけど、2回ともそんな感じで、この曲の主人公のような潔い態度が取れなかったことが悔やまれるというか恥ずかしいというか自分なんか死ねばいいというか。

草野さん、ごめんなさい。「子グマ!子グマ!」を聴いた男は、この曲が歌っていることを実践できませんでした。もしも次があったら強がっていられるようなイケメンになりたいと思います......。フラれるのに次なんてない方がいいですけどね......。