2023年に初訳が刊行された、1932年にフランスで描かれた本格ミステリの埋もれた作品。
富豪の経営者ヴェルディナージュは夢の邸宅マルシュノワール館に引っ越してくる。
しかし、館では代々の主人が「禁じられた館から立ち去れ」という謎の脅迫状に怯えて転居を繰り返していた。
卑劣な脅迫には屈しないと脅迫状を無視するヴェルディナージュだったが、やがて脅迫状に書かれていたタイムリミットの日を迎え......。
直近で館ものミステリが流行っているので、過去作ですが便乗して読んでみたら別に全然館ものではなかった......けどまぁ普通に面白かったし、なんせこういう「発掘された幻の作品」みたいなのに弱いので珍味食うみたいな感覚でも楽しめて良かったです。
海外ミステリのことは本当に全然何も知らないのですが、本作が描かれたのはクイーンとかカーとかが活躍していた主に英米の探偵小説黄金期のはず。
本作はフランス産ですが、やはり曰くのある邸宅での殺人、いずれも怪しく癖のある登場人物たち、手がかりを精査して行われる論理的な推理など、いかにも本格探偵小説らしい内容になっています。
フランスのミステリってなんとなくもうちょい観念的で分かりづらいイメージだったので直球の本格ミステリなのが意外でありつつも嬉しかったです。
城館、脅迫状、拳銃、タイプライターなど小道具もいちいち古典ミステリらしくて雰囲気ムンムンなんですが、そんな中にも皮肉っぽくトボけたユーモアがある文章が独特のPOPさを出していて、訳のおかげもあるかもですが100年前の作品とは思えぬ読みやすさ。しょうがないけど登場人物の多くが「ムッシュー誰々」と呼ばれるのがちょいめんどかったものの、それを抜けば脅威のリーダビリティでした。
内容としては、前半は館の主人ヴェルディナージュを主役にした事件までの顛末で後半からは捜査機関の人間や名探偵による捜査・推理パートで二部構成になっています。
館の主人には家族がなく、使用人たちが遺産相続人であり容疑者になるのが珍しい気がして面白かった。子供達による遺産争いとかではなく。
ミステリとしては、今読むと分かりきったことを長々と推理したりしててゆるさは感じます。動機と状況証拠だけで犯人扱いして、読んでたらすぐに分かるような反証に誰も触れないからこっちが勘違いしてるのか?と思ったり。
そんでも、あいつが怪しいこいつが怪しいと二転三転する推理合戦は楽しいし、名探偵が解き明かす最後の真相には意外性もあり、終わり方も粋なもので、最後までチョコたっぷりでしっかり楽しめました。てかトッポも最近小さくなってあんま最後までチョコたっぷりも何も......って感じですね。
てかあの終わり方、すごい新本格っぽさを感じました。こんな昔からこういうセンスがあったんだと驚く。
