偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

街の灯(1931)


盲目の花売りの女性に一目惚れした浮浪者の男は、本当の姿を隠し金持ちの紳士のフリをして彼女と親しくなっていくが......。


U-NEXTでチャップリン作品が大量に観られるようになりました!やったぜ!
というわけで、特に好きな本作を再鑑賞。2回目でもやっぱりめちゃくちゃ良いじゃんかよ......。


1931年の作品で、時代的にはトーキーへ移行しつつある時期だと思うんですが、本作はサイレント作品。字幕はあるけどそれは補足説明程度で、ギャグなどは全て動きで見せるものなんですが、動きだけで今観てもこんなに面白いのは凄い。
基本的にはほとんどのシーンが単体でショートコントみたいになっていて、それを束ねて一つの長編になってるみたいな映画なんですけど、各シーンの状況設定が上手すぎてこんだけの質と量のショートコントを作っただけでも凄えわみたいな気持ちになります。同じネタを繰り返すのも基本2回まででギリギリしつこくならない程度に「やると思ったよ〜」の笑いを見せてくれるのが上手い。
自殺志願者の富豪の家の場面なんか全部めちゃ面白いし、ボクシングのシーンも(ここはややくどいけど笑)いつまででもボケ〜っと観ていられますね。
あと、基本的にアホなコメディでありつつ映像の構図とかが全部美しいので上品で知的な雰囲気すらあるのがまた好きですね。

そんで、コメディとしてそんだけ面白いのに更にラブストーリーの要素もあり、しかもラブストーリーとしては決してハッピーエンドではないのが深みを増していて素晴らしくも初見時はぶっ刺さってトラウマになりました。
本当の自分を隠して取り繕って、それでも彼女のために体を張ったりもするその愛情は本物で......そんな主人公が彼女と過ごすシーンの幸せそうな表情を観ているだけで(結末知ってるから余計に)苦しくなるし、彼女の方も満更でもない感じもまた(結末知ってるだけに)つらいんですよねぇ。この、爆笑しながらも切なく胸が締め付けられるという不思議な味わいこそ本作の魅力!

結末については仄めかしてはしまったもののネタバレになるので後でネタバレ感想として書きますが、ラストに至って序盤のあるシーンが効いてくる演出だったり、表情だけでこの強烈な切なさを成立させる演技だったりがとんでもなく、語り草になるのも分かる素晴らしいラストシーンでした......。

以下ネタバレ。



































































































ネタバレ。
彼女の目が見えるようになったことで浮浪者だとバレて失望されるというあまりに残酷なラストに初見時「え、マジで?」と戦慄しました。
それでも、失望されるかもと分かっていながらもすぐにその場を離れない主人公の、もしかしたらみたいな気持ちとかも感じられて余計に苦しい。
しかし、思えばこの場所で子供たちに豆をぶつけられたりってのは冒頭にもあったシーンで、その冒頭の方では主人公がガラスのショーウィンドウの中の女性のブロンズ像に見惚れているシーンだったんですよね。
結局、最初から一方的に見惚れるだけの恋で、相手にもこちらを見られたらそこで終わりだということが冒頭から暗示されているという構成の凄み......。だから「え、マジで?」と思うような結末でも納得せざるを得ないんですよね伏線あるし。恐ろしいトラウマ恋愛映画です。