偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ミッドサマー

アリ・アスター、待望の2作目。観てきました。
どうでもよすぎるけど、『アリー/スター誕生』という映画を「アリ・アスター」と空目しがちな今日この頃の俺だ〜。

で、はい、恐らく、コロナウイルスによる前倒し需要も込みだとは思いますが、それにしても平日のレイトショーでシアターの半分くらいが埋まってる、30人弱は観客がいる状態で、まじで大ヒットやんと実感しました......。なんせクソ田舎なもんで普段は貸し切りのことも珍しくないのに......。


前作『ヘレディタリー』を観た時から、デビュー作とは思えぬ確立されたヤバみ溢るる作風に惚れて注目しつつ、一方で『ヘレディタリー』の内容は全く分かってないという状態でしたが、本作もやはり「めちゃくちゃ良かったけど、あんま意味わかんなかった!」という感じでした。





なんかもう、ネタバレなしでは何も書けない上に、ネタバレありでも私如きうんこ平和ボケぬくぬくハッピー御曹司には的外れうんこなことしか書けないのでもはや書く意味ねえ気がするけどせっかく観たんでちょっとだけなんか書いとくわね。

まずネタバレせずに一言だけ言いたいのは、これホラーじゃないんで!!
ホラーだと思って観に行ってガッカリしてる人とかけっこう見かけて、悲しい気持ちになるので......。


では以下ネタバレしつつ、内容について。




























はい、私はね、今まで何不自由なく暮らしてきましたよ。

本作の主人公は、妹が自殺し、両親も後追い自殺し、悲しみのズンドコに沈みすぎて彼氏からも重く思われてしまってるダニーちゃん。
そんな彼女が主人公であり一応視点キャラ的な立ち位置ではあるんですが、どうしても私自身、家族を亡くしたり、メンタルを壊したり、手酷い失恋をしたり、クスリをやったりといった本作に出てくるような人生経験を何も積んでいないので、ダニーの気持ちが分かるとはとても言えません。
また、頭も悪いし教養もないので、作中に散りばめられた謎や伏線の意味も全く分かりませんでした。

だから、刺さったとは言えないんだけど、それでもめちゃくちゃ楽しみました。



その理由として、とにかく圧倒的な映像と演出、意外と説明的な部分も多いこと、色んな要素がぶち込まれていて少しずつツマめることなんかがあるかと思いますね。



前作でも、タイミングがおかしすぎて逆にキマッてるカットの繋ぎ方とかによって的確に不快感を与えてきやがった監督ですが、本作でも、冒頭の美しい歌声をぶった切って鳴るやかましい電話のコール音からして不快な編集が楽しめます。

また、村へ向かう際のぐるっとカメラが回り込んで逆さまになっちゃうとことか、千と千尋で言う橋みたいな、異界へ行きます合図だったり、案外分かりやすいとこも変なセンスで見せてくれて面白い。正直酔いましたが。
異界の合図といえば、夏至でほぼ常に明るいのも、我々の住むこの世界とは一線を画していることの表明のように思えます。



ストーリーは、前述の通り、ホラーではなくって異文化交流+恋愛映画という感じ。

主人公ダニーが大変な状況でかわいそうとは思いつつ、自分の経験値ではどう考えても彼氏のクリスチャンの方に感情移入する他なく、彼がクソ野郎だと言うことが描かれていくにつれて自己嫌悪でそれはそれで軽薄にどんよりさせていただきました。

つらい経験をしてない人間には、してる人間に寄り添うことなんてどうしても難しいし、そうやって他人に寄り添えない人間は他人に弱みを見せて頼ることすら出来ない。
それでいて、自己愛は強いから意外とクリスチャンの方がダニーを捨てることもできず、承認欲求のために彼女に依存してるような感じもする......ってのは全てこれを書いてる私のことですが、そうやって彼に感情移入しながら壊れゆく恋人関係を眺めていました。
彼の些細な言動に同族嫌悪を抱き、あるいは、他のカップルの婚約を祝福するダニーを見ているのが私にとっては1番のホラーだったり。



一方で、ホルガという俗世から隔絶された村の描写もまたすこぶる魅力的。
ドラマ『TRICK』を引き合いに出す感想やネタツイもよく見かけますが、スタンスとしてはあんな感じに、あくまでファンタジーとして楽しむべき。そのための、カメラぐるっと演出なんだろうし。
とはいえTRICKみたいなギャグは入らず(いや、でも笑っちゃうんだけど......)、浮世離れしつつシリアスに描かれるのがいい。

特に、彼らの死生観が印象的でした。
なんでも、人生は18年ごとのサイクルで春夏秋冬をなぞって巡り、72歳になって四季を終えると崖からダイブして輪廻転生!!Yeah!ということらしいですね。
美ジジイの末路にはさすがに戦慄しつつも、死にきれなかった時に一緒に嘆いてくれる村の人たちは優しかった。

この辺で、この村のone for all,all for one的な文化も見えてきます。
セックスにも許可が必要だったり子供の数まで決められていたりと、我々から見ると全体主義の管理社会みたいな感じでディストピアにも見えます。
しかし、個性を重んじるあまりに人との繋がりが薄れ、あるいは考え方の違いで殴り合い、老いて動けなくなっても機会に繋がれて醜く生きながらえさせられるこの現代社会を省みると、どっちがユートピアでどっちがディストピアなのか......と考えると、隣の芝は青く見えたりもします。
だから、本作は一方的な「狂気的な風習を持つカルト村」の話ではなく、異文化との出会いの物語なんですね。



とは言いつつ、どこかでホルガの文化に対して好奇心と軽視とを抱いてしまいますが、同じような気持ちで村を論文のタネにしようと目論んでいるクリスチャンたちはやられちゃったので「自分もあそこにいたら死んでた......」という恐ろしさがあります。

一方、最初は拒絶しながらも村の生活に馴染んでいったのがダニーちゃん。
最後には夏祭りのクイーンになってクリスチャンに裁きを下すまでに出世しますね。
この、村の文化を素直に受け入れるかどうかで迎える結末が変わってくるのが、そのまま他人を受け入れられないクリスチャンと感受性豊かなダニーとの違いを示唆したラストにも思えて、なるほどこれは一組の男女がその断絶を知って別れるまでを描いた『ブルー・バレンタイン』系の失恋映画だったのかと納得しました。

とともに、不幸のズンドコにいたダニーが新しい家族を作り救いを得る話......でもあり、我々の価値観を外して見れば心温まるハッピーエンドです。
この、価値観を揺さぶってくる感じがすごい。好き。あとヘレディタリーと同じくエンドロールがおしゃれ。


あと、タイトルの『ミッドサマー』というのは、もちろん夏至祭のことですが、ホルガでの人生のタームで言う夏のことでもあるんだと思います。
19歳〜36歳。
ホルガ出身の主人公たちのお友達は、この人生の夏の時期に外の世界へ出てアメリカの大学に通います。そこで、外の価値観を知った彼は、それでもホルガに戻ることを選んだ。
そういう、異文化に触れて自分のアイデンティティを確立していく夏の時期を描いた青春映画(いや、青"夏"映画?)でもあるんだと思います。



そんなわけで、ホラーやスリラーの手法を使いつつもアート映画のような映像美とメンヘラ青春恋愛ドラマと変な村モノが混ざったヘンテコ面白ムービーでした。
150分あったらしいけど没入してしまってほぼ長さを感じなかったっすね。
あと、モザイクのシーン、あれはもう、モザイクのせいで笑っちゃう以前に元から笑えるシーンなのでモザイクあってもなくても笑うのは一緒だよね。

あと、主人公ダニー役のフローレンス・ピューさんめちゃくちゃ可愛いしめちゃくちゃタイプ。ジャケ写の泣いてる顔ドアップだとインパクトしか伝わらないけど、ジェニファー・ローレンスみたいな色気がありつつ少女のような可憐さもあって惚れずにはいられない。こんな可愛い彼女がいながらクリスチャンというやつは......。



そんなわけで、なんだかんだ堪能。
ヘレディタリーも本作も監督の実体験が元になっているらしいですが(それが一番ホラーか)、次はどう来るのかが気になりますね。監督はさらなる悲劇体験を持っているのか!?