偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

島田荘司『夏、19歳の肖像』感想

夏なので、読みました。

新装版 夏、19歳の肖像 (文春文庫)

新装版 夏、19歳の肖像 (文春文庫)



19歳の夏。
バイク事故で入院していた私は、病室の窓から見える谷間の家の娘に恋をした。
しかし、ある日その家で恐るべき光景を目撃し......。


夏、それは恋の季節

本作は島田荘司作品の中でも青春ミステリの傑作としてファンの間で根強い人気を誇る作品です。
文庫本で250ページという短さですが、それが一夏の儚い恋を描くのにはぴったりの分量で、腹8分目くらいの読後感が切ない余白を残します。


物語の発端は覗きから始まる片想い。
当時の道徳観念はともかく、今読むと普通にストーカーだし気持ち悪いところはありつつ、しかし19歳の頃を思い出せば共感せざるを得ません。
相手のことを何も知らない思い込みのような恋だけど、それゆえの純粋さというものも確かにあると思います。

窓からの片思いのパートも面白いんですが、やはり2人が実際に出会ってからは一気に読むスピードが上がりましたね。
ヒロインがちょっと都合良すぎる感はありつつ、年上のお姉さんってやっぱ良いなぁと思うわけですね。
そんな綺麗なお姉さんの前で道化を演じながら憧れながら破れかぶれで大体にアプローチもしちゃうあたり、むずキュン。

しかし元々の発端が秘密めいて重いものなだけに、後半からは悲恋を予感させる(しかしそれだけにロマンチックでもある)展開が続いてハラハラしました。

最後どうなるのかはもちろん言えませんが、映像的にも映えるクライマックスからの余韻の残る結末は、この夏の間は忘れられなさそうです。だってもう自分で恋する機会なんてないもんね。

(ネタバレ→)彼女がほんとに主人公を愛していたことに驚いてしまいました。絶対この童貞野郎騙されてやがるぜ!と思ってたのに。
そうなるとちょっとヒロインが男の願望の権化に見えなくもないですが、そういう都合の良いラブストーリーもフィクションとしては好きなので面白かったです。
そしてちょっと物足りないくらいのところで終わる結末が、失恋の喪失感を表していると思います。