偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

アラビアのロレンス(1962)


1916年、イギリス陸軍少尉のロレンスは、オスマン帝国支配下のアラビアに配属され、アラブ民族を率いて独立戦争を展開していくが......。



ついに観ました超大作。

元は1962年制作の作品ですが、1988年に20分の未公開シーンを追加して「完全版」として公開されたらしく、私が観たのは厳密にはその完全版の方なのですが、完全版はなんと227分。いやぁ、長かった......。
ほぼ4時間ということでさすがに2日に分けて見ちゃったし、中盤くらいからだいぶ疲れてきてダレちゃったところはあるけど、とにかく映像が凄かった......。これは映画館で観たかったっすね。家だとどんだけ映像が綺麗でも4時間は寝ちゃうわ......。

いやしかし映像がヤバいです。
雄大な砂漠の風景はもうそれだけで絵になるし、そこに大勢の人間やらラクダさん🐪やらがいるだけでもうスペクタクルですからねぇ。昼の青い空の下で茫漠と広がる砂漠、夕陽に照らされて燃えるような夕刻の砂漠、静かで昼中の暑さが少しだけクールダウンするような印象の夜の砂漠と、時間帯ごとの砂漠を眺めているだけでなんか幸せである。
特に序盤のイギリスでロレンスが「お前アラビア行きな」と言われてマッチの火を吹き消した瞬間に火のように赤い砂漠の光景にジャンプする編集とかカッコよすぎて思わず「おおっ!」と声出ましたよ。この演出で一気にこの砂の世界に魂を引き摺り込まれてしまいました。けど、そんなふうに「砂漠きれえ〜」とか思ってると、現地の人が「アラブ人は砂漠ではなく水と緑を愛する」とか言い出すので、確かにここで暮らすのはキツイよなぁすんません......と思いましたが......。

ほんでストーリーなんですが、あらすじだけ見て「イギリスの軍人がヒーローで、アラビア人と一緒に戦うスペクタクルやろ!」と思ってたら思いの外歴史的・政治的な知識が要求されて正直あんま理解できなかったし、思ったより陰鬱で虚しいお話でもありテンションぶち上がるアクション超大作ではなかった......。
なんせ冒頭でいきなり1935年に主人公のロレンスがバイク事故でお亡くなりになるシーンから始まり、そこから回顧録のような形で1916年に飛ぶ構成になっていて、常に彼の悲しい末路を想起しながら本編を観ることになるわけです。
そしてその内容も、友達みたいになった案内役が殺されたり、自分を慕う助手みたいな青年を処刑するハメになったりと、常に簡単に人が死んでいく展開が待ち受けていてしんどい。そして、特に中盤以降ではロレンスがだんだん選ばれし男としての傲慢さを出してきたり、殺しに後味の悪さと共に一抹の愉悦も感じたりといったある種人間らしい弱さが描かれていって、序盤の飄々とした変人のイメージと比べてより感情移入はしやすくなるけどつらさもどんどん増していくのでつらい。
そして、選ばれし者のような振る舞いをするロレンスも結局はイギリス軍の駒として利用され、アラビアにとっても畢竟は余所者でしかないという、足場を見失うような虚しさで物語が終わるのも強烈。ラストシーンでロレンスのバイクが追い越されるところに無用の人となった彼の悲哀を感じつつ、冒頭のバイク事故にも繋がる構造になってるのも面白くて、このラストから冒頭の事故までの20年を彼はどう過ごしたのか......と想像して悲しい気持ちになります。ちなみに史実においてのロレンスはその後空軍に入ったり色々してたらしいですね。
ともあれ、こんだけ長い映画を観て最後のシーンが最初に繋がる演出をキメられると非常に感慨深くて良いっすね。
あとロレンスはどこかゲイっぽい含みを持たせて描かれてもいて、その辺にも注目しながらまた観たい......と思いつつしばらくはもっかい観る気力もない。どっかの映画館で上映してくれへんかな。