偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

アリス・スウィート・アリス

70年代スラッシャーの隠れた名作と呼ばれる本作。
ちょっと前までは日本未公開でDVDにもなってなかったらしいですが、数年前にDVDになって、ついこないだついにBlu-ray化もされたみたいで、今はそんなに入手困難ではなくなったみたいですね。良いことです。




母親が妹ばかりを可愛がるからと妹をいじめていた12歳の少女アリス。
聖体拝領の日、チャーチで妹が殺害され、アリスはその疑いをかけられてしまう。
さらに、彼女の身の回りで黄色いレインコートと不気味な面をかぶった殺人鬼が跋扈するようになり......。



さて、本作ですが、ダリオ・アルジェントみたいに殺人鬼が人を殺しまくってくスラッシャーもののつもりで観たのですが、それもありつつ意外と文芸的な側面も強かったですね。


私みたいなバカにはよく分かんねえけど、性とか宗教とかがテーマになってて、一種異様の深い怖さがあります。見てはいけない人の心の深淵を覗き見るような......。

ちなみに撮影当時、12歳のアリスを演じたポーラ・シェパードさんは実際には19歳だったらしく、ぱっと見とてもそうは見えないけど、しかし12歳とは思えぬ色気があるので納得もしたり。このそこはかとないエロさを出すためのキャスティングなのね。
彼女の等身大の邪悪さと、女になりゆく少女の不安定さに魅せられてしまいます。


んで、アリスはもちろん他の登場人物も、みんながみんな何か屈託を抱えていて、それが丁寧に描かれていって、それ自体がサスペンスになってんのが面白すぎます。

両親や神父さんや叔母さんやアパートの大家さんまでみんな濃くてみんなちょっとずつ怪しかったりおかしかったりする。
でもアリス本人もめちゃくちゃ怪しいし、その他のチョイ役の人たちすらいちいち怪しくて、「誰が犯人か?」という1番シンプルなミステリとしての引きが見事に成功してます。



あと、映像もめっちゃキマってて最高。
つるっとした黄色いレインコートとつるっとしたお面の犯人の不気味ながら妙な艶かしさのある姿が印象的。
人形とか瓶詰めの黒い悪魔とか大振りのイカしたナイフとかの小道具もいちいち良いし、わりと淡白な色合いの中に原色が映える色使いだったり、凝ったカメラワークだったり、儀式で舌を出すシーンみたいなドキッとさせる映像をちょいちょい挿入するところだったり、毎日眺めてたいくらい画面に映る全てが美しい。



そして、明かされる犯人の正体は意外だし、でも動機がしっかりと描かれるから納得も出来るんすよね。
犯人が分かることでそれまでのその人の登場シーンがまた深い意味を持って思い出されます。

あと、犯人が明かされるタイミングも上手い。ミステリの意外性ってネタそのものもだけど演出に依るところも大きいですからね。パッと見せられてワッと驚けるのが良いですよね。
さらに、「犯人の正体」という1番の謎が明かされてからも、その人物のドラマがかっつり描かれつつ、エスカレートする犯行、そして衝撃的な結末に至るまで飽きさせないのも良い。ラストシーンめちゃくちゃ良い。良い。好き。



結構な低予算映画らしいですが、脚本の面白さといい、映像のセンスといい、おどろおどろしさの中にもちゃんと上品さがあって安っぽさは一切なかったですね。
ニコラス・ローグ『赤い影』の影響も強いみたいですが、ああいう文学性を持ちつつも本作の方が分かりやすくエンタメにもなってて個人的には好きです。
あと、本作がデビュー作となる(だからやたら宣伝文句にされてる)ブルック・シールズさんはやっぱり天使でしかなかったです。めちゃくちゃ重要なチョイ役ですけど。

んな感じで、ミステリファン、ホラーファン、映画ファン、ロリコンと色んな人にオススメしたい隠れた名作っす。観てね!



以下少しだけネタバレで。




































さて、犯人が明かされた瞬間には一瞬「誰?」ってなるくらいの脇役おばさんが犯人だったので、「おいおい、意外なら誰でもいいわけやないぞ」と正直思っちゃいましたが、その後で描かれる動機につながりそうな断片......神への生真面目な信仰、神父さんへの献身、一方で抑圧した欲望と、若さへの嫉妬......などを観ていくうちに、これまでに彼女がチョイ役として出てたシーンにもその欠片が散りばめられていたと分かり、一気に納得してしまいました。

そして、そんな彼女の複雑な心情が、最後に彼女とは対照的な、それでいて相通ずる狂気を持つアリスに引き継がれる様はもはやヘレディタリー。
犯人おばさんが終盤の主役になっていたところからの、主役の座を奪還してエンドロールに突入するアリスちゃんの恐ろしさに萌えます。
女を失った犯人から、女になろうとするアリスへと狂気が継承されるっていうところで、19歳の女性がアリスを演じて微妙な色気を出してきたのはやっぱ上手いと思います。

あと、関係ないけどゴキブリのシーンの、「おばちゃんに大家さん殺す動機ある......?なんか読み違えてる......?」からの「じゃーん、アリスだよ!」にキュンとしました。アリスちゃんかわええ......。てか大家さんが1番キャラ濃いわなんだあいつ。

あと、関係ないついでに、ママめちゃくちゃエロかった。ああいう大人のお姉さんがマダムっぽい手袋(伝われ)してるのめちゃくちゃエロいですよね。でもたぶんママのエロさも重要なポイントよね。