偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

トラウマ/鮮血の叫び(1992)


精神病院から脱走してきた拒食症の少女オーラを助けた新聞社に勤める青年デヴィッド。
しかし、家に帰されたオーラは、母親が催す降霊会の夜に、世間を騒がす首斬り魔が両親の首を抱えて逃げる姿を目撃してしまう。
病院やマスコミに追われるオーラを匿いながら事件の謎を追おうとするデヴィッドだったが......。



ダリオ・アルジェント監督による92年の作品。2000年以降はデジタルな画質のせいもあってわりとビミョーな感じになっちゃうアルジェントですが、この辺までは良かった!

なんせ冒頭から人形劇の首斬りのイメージと、看護師の女性が電動ワイヤーギロチンで首を狩られる殺害シーンが続き、「首斬り」に彩られた恐怖の物語の幕開けとしては最高!
犯人が使う電動ワイヤーギロチンですが、輪っか状にしたワイヤーに巻き取り機を付けた道具なんですね。ワイヤーを被害者の首にかけてスイッチを入れると、ワイヤーが巻き取られていってやがて首がチョキンと斬れます。迂遠!斧とかでやれよ!しかしスイッチさえ入れれば素早く簡単に人を殺せるので忙しい現代人にはもってこい!一家に一台ほしい殺人家電です。
そんな特殊な凶器を使って世間を騒がす首斬り魔が犯行を重ねていくスリラー/スラッシャーの骨組みがありつつも、残酷描写は過去作品に比べるとかなりマイルドになっていて、鮮血を求める観客には(邦題に反して)正直やや物足りないです。
とはいえ、喋る生首とか、サスペリア2のセルフオマージュとかインパクトのあるビジュアルを見せてはくれるので良かったっすけどね。

そして、本作はその分ラブストーリーとミステリとしての面白さが強いので、トータルではアルジェント作品の中でもだいぶ面白い方だと思います。
主演は監督の娘アーシア・アルジェント。当時10代後半の(現在の貫禄と比較すると余計に)あどけなくイノセントな美貌にもうイチコロです。よく見るとちょっとパパ似なところもあるのがまた可愛いだけじゃない存在感を放っていてめちゃくちゃ良いんですよねアーシアちゃん。心を病み両親も失った薄幸の美少女という役柄が似合いすぎている......。
そして、そんな美少女に出会い最初は気にかけて保護する感じなんだけどだんだん愛し合うようになっていく主人公の青年デヴィッドくんもイケメンだし基本賢いんだけど絶妙にちょっと頼りなさげなところがとても良くて、かれらのBoy meets Girlにきゅんきゅんしながら観てしまいました。湖のシーンとか美しいよね......。

そして、本作はミステリとしても絶品。
インパクトのある映像トリックに驚かされた「サスペリア2」へのセルフオマージュシーンもあるように、本作もまた映像だから映える印象的なトリックに初見時は度肝を抜かれました。トリックの巧さとしてはサスペリア2よりも巧いと思います。
そして、トリックだけではなく、動機や犯人像も印象的で、犯人が迎える結末も含めて解決シーンはかなり面白さてんこ盛りでしたね。

あと、個人的には終盤の解決編のちょっと前に一旦世間的には事件が解決した(The nightmare is over!)みたいになって、デヴィッドはオーラを失って彷徨うシーンのあの切なさと(まだ終わってないんじゃないか......)という不穏さがかなり好きです。

ちなみに今回観るの2回目だったんですが、前はVHS📼で観たので、デジタルの画質でU-NEXTで配信されてめちゃくちゃありがたいです。欲を言えばアルジェント全作配信して欲しい......。