偽物の映画館

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スピッツ『スピッツ』今更感想

スピッツアルバム感想シリーズではこれまで最近の作品を中心に書いてきましたが、今回はデビュー作まで遡ってみようと思います。

スピッツ

スピッツ

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さて、最近のスピッツの曲は、ゆうても歌詞がかなり分かりやすくストレートになってきてますが、この頃はもう本当に意味不明ですね。
一文ずつがまずよく分からない上に、全体通して読んでもやっぱよく分からないっていう。
ただ、初期の頃に草野マサムネ本人がイキって語ってたように「死とセックス」というテーマを踏まえて聴いてみるとなんとなーく歌詞から湧き上がってくるイメージが見えてきます。

特に、ブルーの背景にヒトデのジャケ写で歌詞カードにも色彩が無い本作には「死」のイメージが濃厚で、赤い猫のジャケにサイケな歌詞カードで性的な匂いの強い次作『名前を付けてやる』と対になっているように思います。

さすがに最初期なのでアレンジや曲調のバリエーションは今と比べて少ないですが、それでもそれぞれの曲に個性的な世界観があり、シンプルだからこそバンドの音がよく聴こえて、装飾的な近作に疲れた時なんかに聴きたくなるんですよね。

ちなみに私が初めてこのアルバムを聴いたのは中学生の頃でしたが、古くて気味の悪い()アートワークや今と比べて気持ち悪い()歌い方、よく分からんけどなんか不気味な()歌詞から、分からないなりにヒシヒシとスピッツの隠し持った毒の恐ろしさを感じ、一時期こんなキモいバンドなんかファンやめちゃおうかなと考えたくらい衝撃的でした。
それで一旦スピッツから離れてポルノとかいきものがかりみたいな健全な音楽を聴くようになって、でも結局帰ってきちゃったんですよね......。

それでは以下で各曲の感想を。




1.ニノウデの世界

イントロやサビ、間奏ではロックなギターを掻き鳴らしつつ、Aメロとかではアルペジオっぽい小綺麗な音色っていうギャップ萌え。
明るくも暗くもなく、早くも遅くもない、言ってしまえばそう特徴のない普通の曲なんですけど、それでもなんだか異様な感じがするのはタイトルと歌詞ゆえでしょうね。

冷たくって柔らかな
二人でカギかけた小さな世界

という、ファーストアルバムの一言めからスピッツの(少なくとも初期の)世界観を凝縮したようなフレーズ。
ロビンソンのサビも同じような感じですが、こっちのがもうちょい卑屈に閉じた印象ですね。

歌詞の全体像についてはとにかく意味不明ではっきりとは分かりませんが、個人的にはヒモ的な甘えた男の話のように思います。
それは僕を乗せて飛んでったけど、僕はすぐに落っこちたというあたりからの印象で。

ただ、単純にそれだけではなく、各所に死の匂いが散りばめられていることから、心中のような感じもしなくもないです。
そもそも冒頭の「冷くって」は死んでるから?とか、「煙」も死の印象。
また、「石の僕は空を切り取った」というところは、カール・ドライヤー監督の『吸血鬼』で棺に入った吸血鬼の視点から四角い空を写すシーンを連想しました。なんかマサムネあの辺の映画見てそう。




2.海とピンク

イントロからして「海に来ました!」感全開なサウンドですが、同じ海でもサザンの海は女をひっかけに来た感じなのに対してスピッツの海って陰キャの貧乏大学生が田村の車に乗り合わせてやってきたみたいなダサさがあります(色々偏見)。

歌詞の内容についてはエロい人たちが「アレはアレのことでコレはコレのことで......」とエロ想像力を総動員して当てはめたりしてますが、全体には初めての恋人とセックスしまくってるうちになんだか虚しくなってきた歌、という印象。
「ピンク」が性だとすると、「海」は死とか輪廻のイメージですかね。つまり「海とピンク」とは死とセックス、なんじゃないかな。

「プラスチックでがっかり」とか、「あくびして」というあたりに、昼からセックスして楽しいけどなんか虚しいような倦怠感や退廃感が真夏の海の日差しなんかのイメージとオーバーラップしててとてもエモいですね。

わちゃわちゃしてから最初に戻って「ジャーン」と終わるアウトロがけっこう好き。




3.ビー玉

わりとアップテンポな2曲の後で、日曜日の昼間のようなほのぼのとして眠くなりそうな曲。改めて聴くとベースの動きが良いですね。

で、ほのぼのしたサウンドと「やーんやややーんやや」と気の抜けそうなスキャットのイントロから始まった割に、一言目には「おまえの最期を見てやる」というギャップに冷や水を浴びせられたような気持ちになります。
それからもサウンドは間奏でハーモニカが出てきたりとあくまでのどかで可愛らしいのに歌詞は常に死の匂いを纏っています。
「俺は狂っていたのかな」「空色のナイフ」「真っ赤な血の海」と、Aメロでは不穏な言葉が並べ立てられつつ、サビでは無邪気と言っても良いほどの

タマシイころがせ
チィパ チィパ チィパチィパ

ですからね。めちゃくちゃ間延びした歌い方がまた気持ち悪くて、死とか輪廻とかのこと考えすぎて虚無感で力が抜けきっちゃったみたいなイメージさえあります。

実を言うと今でも気持ち悪くてあんまり聴かない曲ですが、めちゃくちゃ好きですね。




4.五千光年の夢

イントロのギターが印象的。口笛で吹けちゃうくらいのメロディアスさ。
ノリはいいけどやはりどこか倦怠感や不気味さも感じられる曲です。

タンタタンタンにチュチュ......にチィパチィパと、これまでもスキャットや擬音が多用されてきましたが、この曲はついにサビが丸ごと「ラララ......」になっちゃってます。

その分(?)、歌詞はABメロ部分のみで短いですが、やはり謎が多すぎます。

全体の印象としては死にに来たけど死ねなかった人の話かなぁ、と。

五千光年の夢が見たいな
うしろ向きのままで

五千光年の夢、というのはやはり死のことでしょうか。後ろ向きのままでというもはや不敵なまでにネガティブな言い草がなんともスピッツらしい気がします。

すべてが嘘だったとわかった
お弁当持ってくれば良かった

というところが好きですね。
私の想像だと、死ぬつもりだからお弁当持って来なかったけど、急に全てが嘘だったとわかってしまって死ねなくなってお腹すいたみたいなイメージなんです。

ゆがんだ天国の外にいて
ずるい気持ちが残ってるから
ちょっと照れくさくて ちょっと照れくさくて

というのも、死にたくないというずるい気持ちが残ってるから天国の外にいるのかなぁ、とか。

頭ガイコツの裂け目から 飛び出してみよう

ってとこで「骸骨」を漢字で書かないところに美学を感じます。




5.月に帰る

ストリングスっぽい音が入って、このアルバムにしては壮大なイントロがなんとも幻想的でステキ。
初期のスピッツらしい切なく儚い曲ではありますが、ここまでの曲にあったような変態性や閉塞感はほとんど感じず、ファンタジックでロマンチックで聴きやすいです。

サウンド的には、こういうのシューゲイザーって言うんですかね?あんまり分かってないんだけど、浮遊感がありますね。
ぼやーっとしたギターの音色が綺麗で、ドラムはほとんどシンバルしか聴こえないくらい抑えめで名脇役って感じ。
アウトロが長めなんだけどめちゃくちゃカッコよくてゾワゾワします。

歌詞はかぐや姫的なイメージをシンプルなラブソングに重ねたもの。
運命的に出会った2人が、同じように運命によって離れ離れになる......みたいな。

もうさよならだよ 君のことは忘れない

という、このアルバムの中では浮いてるくらいのストレートな一節が切ない。




6.テレビ

ヘンテコなギターのリフに一つずつ音が増えていったかと思ったらいきなり歌が始まる不思議なイントロがすごい好きです。
気怠げなメロから、やや疾走感のあるサビへの展開はエモいんですが、なんせ歌詞がわけわからなすぎてサウンドから感じるエモさをどこにぶつけていいか分からないですね。
なんつーか、歌詞の1行1行がまるっきり独立していてつながりが分からない、しかも1行ずつが既に意味分からないという、しかしそれでいてヘンテコさの方向性に統一感があるから破綻してるようには見えないのも凄いところ。

で、この曲の歌詞の解釈にはファンの間で有名な定説があって、それで読むと結構しっくり来てちゃんとエモくなったりするんですけど、今思えばまるっきり分からなかったときの混乱もまた楽しかったですね。
実は個人的にこのアルバムで2番目に好きな曲だったりします。




7.タンポポ

シンバルの音から静かに始まり、ゆったりした演奏に、やる気のまるで感じられない気怠い歌い方でついつい眠たくなってしまうので運転中には絶対聴けないですね。

歌詞には(例によって意味はよく分からないけど)怖くなってくるくらいの諦念が感じられて、なんつーか、音だけなら聴き心地のいいサウンドのはずなのに居心地が悪くなります。

個人的には、心中しようとして自分だけ生き延びてしまったものの昏睡状態......みたいなイメージで聴いてます。
なんというか、それくらいのことじゃないとここまで重苦しい曲にはならないんじゃないか......と思いますね。

普段はなるべく聴きたくないけど、たまにめちゃくちゃ聴きたくなる時がある曲です。




8.死神の岬へ

これがこのアルバムで1番好きな曲。
儚くも疾走感のある音も良いし、サビの後にまたサビがあるみたいな構成も良いし、メロディ自体も普通にめちゃくちゃ良い。

そして、何より歌詞が良いですね。
わけわかめなこのアルバムの中にあってはわりと読み解きやすい歌詞で、生きづらさを抱える僕と君が東尋坊(かどうかは知らんけどそんなようなところ)に心中しに行くお話......と分かりやすく解釈できます。
「そこで二人は見た」以降の「〜を見た」の羅列は映像的で、短編映画でも観ているような味わいがあります。ここがほんと完璧だと思う。あと、「見ぃた〜」って言い方も好き。
二人が見たものたちは、存在を忘れられたような、日常世界の外にあるようなものばかり。そこにノスタルジーがありつつ、そういうものを見たことで「いくつもの抜け道」を見出すというオチ(?)も良いですね。

なんというかこの曲に関しては、本気で死にに行くというよりも、死を間近に見つめることで生きてあげようかなと思うみたいな印象がありますね。「いつでも死ねる」というお守りを買いに行く、みたいな。そういう閉塞への小さな抵抗のような弱々しい強さが心に残る名曲です。




9.トンビ飛べなかった

このアルバムで1番パンクロック風な曲。
激しいサウンドに乗せて歌われるのはヤケクソ気味の失恋ソング。
冒頭の「ひっっとりぼっちになったぁ〜」の「ひっっ」ってとこにもう失恋してヤケになってる感じが表れてるのが良いですね。

で、失恋して彼女のことを考えながらオナニーしようとしてるけど勃たなかった、ってことっすかね。

つぶされかかってわかった 優しい声もアザだらけ
やっと世界が喋った
そんな気がしたけどまた同じ景色

というフレーズを見ると、君との関係は、付き合ってみたけどセックスはせずにフラれた、みたいなイメージ。世界にシカトされてるような感覚は、童貞特有のものだと思うんです。

2番のサビの「ペンは捨てなかった」というところからは、なんというかそれこそ私の妄想ですけど、「フラれたから妄想の世界に閉じこもって変な歌を書きました」みたいな作者の後書きっぽさを感じて、この曲がこのアルバムの本編ラストのようなニュアンスで聴いてしまいます。

......というのも、非常に個人的な話ですが、この後の「夏の魔物」(うめぼしは別としても)「ヒバリのこころ」はアルバムで聴くより先にシングルコレクションでお馴染みだったので、なんとなく断絶を感じるというか、アルバムにそぐわない感じがしちゃうんですよね。

ちなみに、宇宙のスイカってなんやねん?




10.夏の魔物

というわけで、ここからボーナストラックです(違)。
たぶん、この曲が1番最初に好きになったスピッツの曲なんだと思います。親が聞いてたサイクルヒットの青盤の中で1番カッコいい系の曲だったし、歌詞も不気味な感じだったので小学生がハマるにはぴったりだったりして。毎日「会いたかった〜会いたかった〜会いたかった〜」って歌ってましたね。

それから幾星霜と過ぎてるわけですが、未だに儚く切なく胸が締め付けられそうになりながらもテンション上がっちゃいます。

二段構えのイントロがめちゃくちゃかっこよくって、間奏のギターソロも含めて歌以外の部分も歌えちゃうようなキャッチーさがあります。
まさに自転車で二人乗りで駆けていくような疾走感。ドラムが良い。特にサビのドラムのリズムがすごい好きです。

歌詞の内容については、この曲もファンの間での定説があるのでいつしかそのイメージで聴いてて、あんまり新たに語ることもないですね。
ただ、歌詞の全ての行にどこかしら不穏だったり不気味なフレーズが入ってるのが凄いですよね。
古いアパート、少し笑った、なまぬるい風、魚もいないドブ川、折れそうな手、密かな掟、夏の魔物、大粒の雨、長くのびた影、クモの巣、殺してしまえば......と言った具合に、ホラー小説から抜き出したみたいなワードチョイスが、あまりにも哀しく重い独白を詩にしていると思います。




11.うめぼし

ファンの間で密かに人気の名曲にして謎曲。「謎」といっても、歌詞の内容が変に抽象的で難解なわけではなく、なんで曲名に「うめぼし」と付けられるのか、そのセンスが謎、ってことですね。

ギター弾き語りみたいな雰囲気で「うめぼし食べたぁ〜〜あぁ〜〜あぁ〜〜い」と、お経ばりに語尾を伸ばす歌い出しからしてユニークなんだけどひどく寂寥感があって素晴らしい。
ひらがなで気の抜けたタイトルと言い、サビ終わりの「あ〜〜あ〜〜」というところでハモるところといい、なんだか"たま"(「さよなら人類」でお馴染みのバンド)っぽさを感じます。草野マサムネはたまのファンクラブに入ってたらしいからあながち間違ってもなさそうですけど。

さて、歌詞はというと、現実世界における生活に疲れて君に会いたくなるという非常にシンプルなもの。
「うめぼし」というのがおっぱいのことだったりおまんこのことだったりという説もありますが、俗物的に考えると下ネタに堕してしまう気がするので単に会いたさの単位と捉えてます。ほら、うめぼしのことを想像すると、口の中にあのすっぱさが欲しくて堪らなくなる、あの感じですよね。

値札のついたこころ 枠からハミ出せない
星占いで全てかたづけたい
知らない間に僕も悪者になってた
優しい言葉だけじゃ物足りない

と、このあたりはここまでの妄想癖が嘘みたいに日常生活の中での閉塞感のようなものを言い当てています。どういう考え方を持っても、どういうスタンスで生きてても、視点を変えれば何かしら悪者になってしまう。それならもう何も考えずに星占いですべて片付けたい......というような気持ちは、SNSでいくらでも悪者になれる今の時代にも刺さる表現だと思います。

それに対して

穴のあいた長ぐつで水たまりふんづけて
涙が出るほど笑いころげたい

という、何かこう、想像のつく範囲内で無茶なことをしたいような感覚というのもすごくわかる。
このアルバムの中で1番等身大に共感できる曲だと思います。




12.ヒバリのこころ

それでは最後の曲。
いちおう、スピッツのデビュー曲ですね。
といってもこの曲のシングルはこのアルバムと同時発売なので、この曲だけとりわけデビュー作と呼ぶのも違和感がある気もしますが。まぁ、昔は同時に出してもシングルはシングルで需要があったんでしょうね。

さて、実を言うとこの曲にはそこまで思い入れがなくて、シングルコレクションで聴いてたときからわりとよく飛ばしてた(2曲目が夏の魔物なので......)のですが、改めてアルバムの流れの中で聴いてみるとやっぱりいい曲ではあります。
疾走感があるイントロに、サビではドラムやベースが力強く鳴らされ、これまでの曲にあった倦怠も諦念も切なさも儚さも感じられません。

それでも「目をつぶるだけで 遠くへ行けたらいいのに」なんていう現実逃避っぽいフレーズもなくはないのがご愛敬。
あと、「レンゲ畑に立っていた」なんてとこは天国みたいなものを想起させますが、そこが過去形でサビでは「強く生きていこう」と未来へ向かうような形になっていて、イメージとしては臨死体験から生還したような感じ(経験ないから知らんけど)。
このアルバム自体「死」の匂いが濃かっただけに、最後に白昼夢から目覚めさせてくれるようなこの曲があることで救われる気がします。

そしてアウトロがめちゃくちゃカッコいい。5分の曲なのにアウトロだけで1分半ありますからね。
こないだ草野のラジオでアウトロ特集やってたけど、これ流して欲しかったくらいですわ。
そして最近でもライブの最後に演奏されることが多いのも分かります。ライブの最後でこのアウトロ聴けたらめちゃテン上げっすもんね。





そんな感じで、スピッツファーストアルバム『スピッツ』通称ひとで盤の感想でした。
通しで聴いたのは久々でしたが、今聴くと物足りないところもありつつも、先々のスピッツの行方を感じさせるような部分も多々あって面白かったっすね。
歌詞の感じ方もその時々で変わりそうなので折に触れて聴きたいと思います。

さて、次回はどうしよっかな。そのまま2枚目か、初めて買ったハヤブサか、夏だしさざなみか、うーん。まぁだいぶ先になると思うのでゆるりとお付き合いください。

最後まで読んでくれてありがとう😊