偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

倉野憲比古「双子」感想。


『スノウブラインド』『墓地裏の家』という長編2作品の電子化を記念して(?)、noteにアップされた怪奇短編です。


https://note.com/kranono666/n/n6701dcec41cb


非常勤の心理士としてカウンセリングを行う大学院生の荒波。
彼の元を訪れた三谷という女性は、周囲の人間が双子にすり替えられているという荒唐無稽な話を語り出すが......。



はい、面白かったです。

本作ですが、舞台は現代で、非モテ青年である主人公の甘酸っぱい青春模様が描かれたりもする反面、私も大好きな古き良き怪奇探偵小説の匂いもムンムンに漂わせていて、そのギャップがとても良かったです。

導入の女の子を花火に誘おうとするところが、地味に自分の大学4年生の頃を思い出させてつらかったです......。

で、カウンセラーとしておばちゃんの話を聴くところからは、古き良き怪奇探偵小説。
ヤバイ人がヤバイ出来事を語るっていう、昔読んだ、ハルキ文庫の鮎川哲也編の『怪奇探偵小説集』なんかを懐かしく思い出しちゃうようなお約束の導入。
「双子」というタイトルのイメージとは違い、どっちかというとドッペルゲンガーのような、すり替わりのモチーフなのがむしろ恐ろしいです。

後半の展開が良いっすね。
静から動へ、日常から非日常へ、という切り替わりがそれぞれハッキリと描かれていて、感じる空気がガラッと変わるのが素敵です。

そして、悪夢的なクライマックスと、オチが怖い。
これ、(ネタバレ→)主人公もまた三谷と同じ妄想に囚われたという見方も出来ると思いますが、それはそれでむしろ怖いですよね。

という感じで、古き良き怪奇探偵小説の味わいが楽しめる一編ですが、そういえばクライマックスのシーンは海外のトーチャーもののB級ホラー映画っぽい絵面でもあり、焼き直しではない和洋折衷的な楽しさと不気味さもあるのがよかったです。

そして、近いうちにもう一編の短編がどこかに出るらしいのでそれも楽しみですね。