偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

葵遼太『処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな』読書感想文

書店にさぁ〜、このタイトルの本が置いてあってさぁ〜、あらすじ見たら死別ものでバンドものでさぁ〜、ぱらぱらめくってたらカート・コバーンとか出てきたらさぁ〜、この私がですね〜、買わないわけにはいかねえだろうがよ〜っ!!



つーわけで買ったぜ!!処女がどうたらいうタイトルだから若干照れて本を裏向きにしてレジに出したぜ!!



"2回目の高校3年生"の始業の日を迎えた佐藤晃。昨年は、病に冒された恋人の砂羽と過ごすため学校には行かなかった。
失意を抱えつつも、新しいクラスで少ない友達を作って目立たず過ごそうと決めた彼は、はぐれ者のギャル白波瀬に導かれ、オタクの和久井、吃音の御堂とバンドを組むことになり......。



まぁ、一言で言えばズルい小説ですよね、これは。反則。ルール違反。

だってよぉ、死別ものとバンドものの両立ですからね。食べ物で喩えたらカツカレーみたいなもんですよ。ハリウッド映画で喩えたらブラピとレオ様のダブル主演みたいなもんですよ。......喩えが下手なことが露呈しただけなのでもう喩えませんすみません......。


さて、そんなわけで、本書は彼女との最後の日々を綴る回想パートと、バンドをはじめる現在パートが重なり合って話が進んでいきます。

そのおかげで、余命ものとしての湿っぽさというか悲しさが(全編をがっつりと覆いつつも)重たくなりすぎないのが良かったっすね。
まぁ題材に対する軽さには賛否両論あるかもしれませんが、私は恋人を......いや、友達でも親でも身近な人を亡くした経験がないので、そこんとこは気にならなかったですね。

一方、2つのでっかい題材を300ページにまとめてしまったために、どっちも想定の範囲内というか、こういう話のスタンダードな展開に落ち着いてしまっている感はありますね。

まぁ、そうしたありがちさもよく言えばストレートさ。純粋無垢さ。
名前のあるキャラクターが全員めちゃくちゃいい奴な本作においては、安心して読めるベタさもまた長所と感じられます。

そう、とにかくみんないい奴なんすよね。
私が高校の頃なんかはほんとに自分のことしか考えられなかったので、彼らのような他人を思いやり尊重できる人たちを見てると過去の自分を恥じる気持ちで眩しくて目が空けていられませんでした。砂羽と御堂ちゃん可愛すぎる。
あとすいません嘘つきました今僕は。本当は今でも私は自分本位な人間なので、読んでて恥ずかしかったです。はい。

で、今を生きる彼らが真摯に人生と向き合っていく姿と、彼女に死が近づくのが重なる終盤はエモエモが過ぎて、文章は脳に直接注ぎ込まれるような読みやすさなのに読み進めることがつらくて何回も本を閉じてはTwitterで「ふえぇ......」と呟いて発散してからまた読むみたいなことを繰り返しました。


そして、読み終えてみると、作中で描かれなかったことまでが読者の胸にはきちんと刻み込まれていて、また泣きました。そりゃ、ずりいよ......。
そんな感じで、翌日はもう何をする気にもあんまりなれずにぼけーっと過ごしてしまいましたね。



なんつーか、バンドと恋の最強さを描いためちゃくちゃ私にぶっ刺さる作品なんだけど、しかし実際の私は冒頭で主人公の佐藤が自己紹介でど滑って「クラスで馴染めねえなぁ〜」ってなったとこまでしか経験してなくて後は本当に友達もできずバンドも恋もしなかったので、これを自分のことのように感じて青春を美化してしまうことへの変な罪悪感みたいなものさえ感じたり......。
上手く言えないけど、あまりにも「こう過ごしたかった青春」を見せてくれすぎて、ちょっと感傷に淫してる感じさえあるといいますか......。私みたいなクズがこんな美しい物語に涙していいのかとか、そんな気持ちにもなったり。


とはいえ、ライト文芸らしい読みやすさでサブカル的なユーモアも交えてなおかつ読後の余韻は悲しくもデトックスしたような爽快なエモーションがあるので、めちゃくちゃコスパいいっすよね。
......なんていう、青春が終わった人間目線の微妙に遠くからの、それでいて青春へのこだわりから抜けきれないダサい感想しか書けないけど、いいもん読んだわ。


ネタバレで特に好きなシーンとかだけメモっときます。





























冒頭のセックスのシーンからの、やりたいことリストの「濃厚セックス」からの、「出来なかった」で、もう泣きすぎて一旦本を閉じましたよね。愛のあるセックスシーン大好き人間なので......。そんな、そんな悲しいことがあっていいのかよ......。

そして、大量の手紙のくだりで砂羽の愛の深さを知り、佐藤の一人称では見えていなかった彼女の物語が一気に見えるあたりも泣くよね。

ひとつだけ、ライブのシーンで実際に歌詞が出てくるのは、別に想像にお任せでもよかったんじゃないかという気はする。