偽物の映画館

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森下雨村『白骨の処女』読書感想文

初代『新青年』編集長であり、江戸川乱歩を世に送り出したことなどから「日本探偵小説の父」とも呼ばれる森下雨村

しかしその作品は、これまで論創社のでっかくてお高いハードカバーのやつくらいでしか読めませんでした。
それがここに来て、河出ノスタルジックシリーズから文庫で手軽に読めるようになりました。河出文庫様まじリスペクト!


白骨の処女 (河出文庫)

白骨の処女 (河出文庫)



神宮外苑に乗り捨てられた盗難車から春木という青年の遺体が発見される。遺体に不審な点はなく、心臓麻痺として処理されるが、記者の神尾は裏に何かがあると睨んで調査をする。
一方、新潟では、春木の婚約者の瑛子が大量の血痕を残して失踪する。春木の友人だった永田は、東京の神尾とも連携を取りながら独自に調査を行い......。


さて、本作は1932年に発表された長編本格ミステリです。
日本で本格モノの長編が隆盛を迎えるのは戦後のことで、戦前にはそんなに描かれていなかったようです。
そんな時期に、こういう怪奇趣味とは一線を画した理知的な長編を描いていたというだけでも素晴らしいこと。

で、内容も、そりゃ今読むとちと物足りない部分もありますが、全体にはとても面白く読めました。



まずは読みやすさが凄い。
言い回しは古臭い部分もあるものの平易な文章自体が読みやすいってのと、東京と新潟をメインに時に大阪とかまであちこち舞台を変える展開にもその一端があるように思います。
今ならまだしも、この頃の東京と新潟の往復なんてなかなか大変だろうし、都市と田舎の差異も今より大きく、片や静かな田舎の風景にノスタルジックな気持ちになりつつ、片や進化の真っ只中にあるモダンな東京にワクワクしました。
中盤はそれでもややダレるものの、終盤ではラストスパートとばかりに事件が連発して一気に読ませます。



内容に関しては、とりあえず、登場人物が多すぎて焦点がハッキリしないようなところはありますね。
変死した恋人たちの話なのか、大富豪の抱える業の話なのか、2人の記者の探偵譚なのか、はたまた......と、ちょっと詰め込みすぎてそれぞれの要素が弱くなっちゃってる気がしました。
それはよく言えば色々味わえるということでもありますけど。まぁミスドのD-ポップみたいな感じっすね、はい。

また、推理によってというよりは足で調査するうちに事実がどんどん明かされていくという感じで、ミステリとしてはやや物足りない、その分サスペンス的な面白さは強いっていう。まぁこれも好みですけどね。

あと、最後はもうめちゃくちゃ良いっすね。
終わり良ければ全て良しじゃないけど、ミステリとしての驚きと、物語としての衝撃を両立させた結末で、あまりに切ない余韻に浸りながら本を閉じ、タイトルをもう一度見てはぁっ、とため息を吐きました。