偽物の映画館

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貫井徳郎『修羅の終わり』読書感想妄想憶測文(※全編ネタバレのみ)

 

《これまでのあらすじ》
明日、この作品で読書会をするのですが、困ったことに自分の考察を全くまとめてないっ!
焦った私は仕事の昼休み、晩御飯の時間、お風呂の中、あらゆる隙間時間を使って1日でとりあえず分かったことだけ纏めました。

 

 

 

 

 

 

というわけで、最初から言い訳で始めてしまい恐縮ですが、非常にざっくりとした結論のない「現在までに考えたこと」の垂れ流しなってますのでご了承ください。

 

タイトルで断っている通り最初からネタバレ全開、読了済みの方向けに、作品内容の説明も今さら特にはせずに書きます。こちらもご了承ください。

 

 


この作品を読み終わって、まずはその繋がらなさに驚きました。
ミステリに3つのパートがあれば必ずそれらが綺麗に収束しなければならないのが普通です。しかし、この作品では最後まで読んでも各パートの繋がりの説明が全くありません。
もちろん、ただ投げっぱなしなのではなく、読者が考えるための材料は揃っています。
つまり、この作品は謎と手がかりだけを提示して、解決を読者という"探偵役"に委ねるという形で本格ミステリとして成り立っているのです。

 

そこで登場するのがこの私、名探偵・青にゃんです。にゃんにゃん。

 

 

 

 

さて......。

謎を解くに当たって、我々が最初に探るべきは各パートの年代です。
そこで作中の描写をあたってみると、

 

「テレビのニュース番組は、どのチャンネルに切り替えても沖縄返還協定が調印されたことについて報道していた」(上 p225)

「つい先頃逮捕された大久保清のような事件」(下 p337)
という部分から

久我パート→1971年

 

「昭和四十七年生まれと記載されているから、現在は二十歳だ」(上 p55)
という部分から

鷲尾パート→1992年

 

ということがそれぞれ分かります。

 

そして、最後まで年代が分からないのがⅡの真木パートです(正直なところやたら鷲尾パートと同年だと思わせようとしてきてる時点で逆に久我パートと同じなのは見え見えですが)

このパートの年代が久我パートと同じだと分かるのが、ラスト1行のどんでん返しになっています。

つまり、久我編と真木編が1971年、鷲尾編がその21年後の1992年をそれぞれ描いているのですね。

 

そして、この空白の21年間というミッシング・リンクを解き明かすことが、本作の"探偵役"である我々読者に提示された"謎"でしょう。

 

 

 

 

さて、それではまず同年の話である久我編と真木編の繋がりからみていきましょう。

ここで主に謎となるのは
1.前世とは?
2.山瀬は何者か?
3.真木の姉とは?
くらいでしょうか。

 

まず1ですが、久我編に出てくるのは「藤」であるのに対し、小織の言う前世の彼氏は「藤」拓也で、「さい」の字が違うことから別人だと分かります。1971年の真木編の中で20年以上前に前世で別れたという記述があるため、この前世の斉藤さんは1950年頃の人物だと思われます。
というわけで思わせぶりな前世の話は一切本筋と関係なかったわけですが、本書に通底する繰り返しの構図を最も分かりやすく暗示するキーワードではあると思います。

 

次に2の山瀬さんの正体ですが、これは真木の姉の仇として久我のことを教えたことから、藤倉だと分かります。藤倉が久我と同年代、山瀬が30前後とそれぞれ記述されていて年齢的にも齟齬はありません。てかこいつまじクソ野郎だな。
そうすると、芋づる式に3の真木の姉も、藤倉がタマとして使っていて、久我に犯させた「死んだ魚の眼の女」だと分かります。
彼女が久我に犯されたのが10月下旬(25章)で、真木の姉が死んだのは手紙の日付から真木編の2ヶ月ほど前と推測されます(22章)。そして真木編の正確な日付は分かりませんが冬の話だと何度も書かれているので、時系列的に見ても間違いないでしょう。

 

それでは、藤倉=山瀬を踏まえて、1971年の久我編・真木編と、1992年の鷲尾編の繋がりを見ていきます。

ここで大きな謎となるのは白木の正体ですが、彼についての
①歳は鷲尾と同じくらい(鷲尾は35歳)で

②アルコールをちびちび飲みながら「アルコールは苦手なんです。これでずいぶん損をしてますよ」と語り

③公安の人間と繋がっている

という記述から、

 

白木=真木


というのが確定します。本当は何も確定していませんが、作者がはっきりしたヒントを書いてないんだから妄想で埋めるしかないんです。もっとちゃんと証拠を提示しといてほしいわ貫井のケチ!


大学二年生だった真木の21年後というと恐らく40歳となり、35歳の鷲尾と同年輩ではなくないか?という疑問もありますが、真木は整った顔立ちと書かれているので見た目より若く見えると思えば辻褄は合います。

となると当然、白木と繋がっている公安の人間というのは藤倉ということになり、

 

藤倉=山瀬=真木の後ろ盾

 

という等式が出来上がります。
つまり、ⅠからⅢの全ての黒幕が藤倉という1人の男であった、というのが本書の最大のトリックだと言えるでしょう。

 

......というのが、
http://ann-ninn150.jugem.jp/?eid=106
木口仁氏によるこちらのブログで書かれていることのロングバージョンになるわけですが、正直これ以上のことはほとんど分かりません。

 

 

 

 

 

ただ、上記のことを踏まえて、目を皿のようにしながら再読していたら、1人だけ気になる人物がいました


それが、鷲尾パートの冒頭に出てくる万引き美少女・長谷川美久たん20歳です。
私が彼女に注目した理由はたった3つ。「昭和四十七年生まれと記載されているから、現在は二十歳だ」という記述、売春はしないというこだわり、そして美久という名前です。
私が本書を再読する中で気をつけて見ていったのが登場人物の年齢でした。1971年と1992年の間で、21歳の年の差があるキャラクターがいたらそれは同一人物ではないか?と。
でもさすがは貫井さん、そこにもちょっとした捻りを加えてきました。
そう、1992年時点で20歳の美久ちゃんは、1971年時点ではマイナス1歳。そう、ちょうど1971年に受胎したと考えれば両年代の"繋がり"になり得るキャラクターなのです。だってこれだけレイプが横行する物語だし、レイプする時に避妊なんてしないでしょ?

 

では誰の子供か?そうなんです、レイプが横行すると言いましたがそれは主に鷲尾ちゃんの仕業で(クソだなこいつ)、久我編でレイプされる女性は真木の姉と玲子の2人だけです。そして真木の姉はレイプされたすぐ後に自殺していることが分かっているので、美久は作中で死んだという記述のない玲子の娘だということになります。
そう考えると、本書のラスト1行のその後がほんのり浮かび上がってきます......。


......真木は久我を殺害。その場で逮捕されますが、初犯で1人、計画性も薄く動機にも同情すべき点が多かったため数年で出所します。しかし、獄中で酷い扱いを受けたため、警察に復讐を誓い「白木」として生まれ変わります。


一方、久我の死を知らされた玲子は、その後自分が妊娠していることに気付きます。レイプによって出来た子供ですが、その久我も既に死んでいるし子供には罪はない。玲子は子供を産むことを決め、父親に会うことが出来ないその子に久我の「久」の字を名付けます。


美久はそんな自らの生い立ちを察しているのでしょう。クスリや万引きはしても売春だけはしないというポリシーを持って生きていきますが、母親と同じようにレイプ被害に遭ってしまいます。

 

 


以上は完全に憶測ですが、美久の生まれ年を(免許証という小道具を使ってまで)西暦でなく昭和で表記している点や、彼女がプロローグから登場している点に作者の意図を感じなくもありません。

 

そして、そう考えると本書のテーマ(と思う)の「修羅は繰り返す」というのにもぴったり合致すると思います。

 

1950年代の「斉」藤拓也と、1971年の「斎」藤。
真木の姉と斎藤の姉・玲子。
萩原への暴力と和久井への暴力。
交番爆破事件と鷲尾の爆弾。

 

このように、本作中で悲劇は何度も似た形をとって繰り返されています。そして、時系列的に最後の爆発のシーンまで行っても、派手なクライマックスというだけで何も解決していないし終わってもいません。黒幕のあの人も生きてます。絶対またなんかやらかします。タイトル、『修☆羅は終わらないっ!』の間違いでは?と思います。

 

また、もう一つのテーマは真木の人生でしょうか。
大きな正義のために協力者を犠牲にすることに葛藤を覚えつつ、最後には壊れてしまう久我。一方、警察の立場を利用して自らの欲望だけを指針に暴走する鷲尾。この対照的ながらどちらも激しい修羅に駆られる2人の主人公に挟まれた、第3の、そして真の主人公が真木です。
最後まで読んで謎を解いた読者だけが、真木のラスト1行のその後にある、彼の修羅を見ることが出来ます。そういう意味では本書の結末こそが真木の『修羅の始まり』であると言えるでしょう。いや、終わりって言ってんだから終われや修羅。

 

というわけで、茹で卵みたいにシワのない脳味噌振り絞って脳汁ちょちょぎれつつ書いた駄文でした。
なお、本文の大半の部分が木口仁氏のブログ「のーみそコネコネ」に依っているので改めてお礼申し上げます
明日の読書会は私みたいな薄らオタンコ阿保ナス野郎には想像もつかないような頭脳派の読み巧者たちが結集するので、これから浅い考察を蔑まれる覚悟を決めなければなりません。馬鹿はつらいよ!

 

......to be continued