偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ミステリ

西澤保彦『死者は黄泉が得る』読書感想文

たしか去年あたりに「今年は西澤保彦を読むぜ」と息巻いたものの実は3冊くらいしか読んでなかったので、今年こそはマジで西澤保彦を読むぜ!......というものまぁアテにならないけど、気が向いてるうちは......。死者は黄泉が得る (講談社文庫)作者: 西澤保…

道尾秀介『透明カメレオン』読書感想文

中学生の頃にハマった道尾秀介ですが、このたび例によってひさびさに読みました。本作は、道尾さんの作家生活10周年記念作品と銘打たれていて、彼が初めて読者のために書いた小説でもあるらしいです。 最近はご無沙汰でしたが一応昔からのファンとしては感慨…

倉野憲比古『スノウブラインド』読書感想文

昨今では珍しく新人賞などは取らずに本書でデビューし、その後もう一冊だけ長編を上梓したっきりの幻の探偵作家、倉野憲比古。 ずっと前にフォロワー氏に勧められていたものの文庫派だからハードカバーはなぁ......などと言っているうちに読む機を逸していた…

連城三紀彦『白光』読書感想文

ひっさしぶりの連城三紀彦。 旧サイトにはたくさん感想のっけてるようになかなかのファンではあるのですが、少なくともこっちのブログ初めて以降は読んでなかったですね。この度久しぶりなので短めの長編でなおかつ評判もいい本書を選んでみましたが、うん、…

深緑野分『オーブランの少女』読書感想文

ミステリーズ!新人賞に入選した表題作をはじめ、「少女」をモチーフにした五つの物語を集めたデビュー短編集です。オーブランの少女 (創元推理文庫)作者: 深緑野分出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2016/03/20メディア: 文庫この商品を含むブログ (5件) …

トマス・H・クック『緋色の迷宮』読書感想文

とある田舎町で、8歳の少女エイミーが突然姿を消した。 写真屋を営む"わたし"ことエリックは、息子のキースが少女を拐かしたのではないかという疑念に駆られる。その疑念はやがて、現在の妻と息子から過去の父母や兄妹まで拡散し、よく知っているつもりであ…

井上ひさし『十二人の手紙』

これからしばらく昔読んだ本の当時の感想を載せていきます。移転。 十二人の手紙 (中公文庫)作者: 井上ひさし出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2009/01/25メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 36回この商品を含むブログ (19件) を見る タイトルの通り、…

島田荘司『毒を売る女』読書感想文

久々島荘。毒を売る女 (光文社文庫)作者: 島田荘司出版社/メーカー: 光文社発売日: 2017/02/24メディア: Kindle版この商品を含むブログを見る 本書は独立した短編・掌編を集めた作品集です。 そういう性質の本だから、ミステリからサスペンス、社会派、青春…

坂木司『アンと青春』読書感想文

前作ではアンちゃんが仕事を通して出会う人たちのお話という感じが強く、アンちゃんは(読者と一緒に)彼らのキャラの濃さに驚く語り手という印象でした。今作では、そんなアンちゃんが色んな人たちとの出会いを自分の内面に反映させていくお話で、アンちゃん…

トマス・H・クック『心の砕ける音』読書感想文

現実家の兄・キャルと、ロマンチストの弟・ビリー。田舎の港町に暮らす正反対の兄弟の前に、ドーラという流れ者の女が現れた。 ビリーはドーラに恋をし、ロマンチストらしく彼女を「運命の女」だと思うようになる。 しかし少しして、ビリーは殺され、ドーラ…

「アンダー・ザ・シルバー・レイク」への小並感、あるいはメモ程度の文章

フォロワーさんに勧められながらも観れないまま上映最終日を迎え、運良くその日に仕事が早く終わったのでこれも巡り合わせかと名駅まで観に行ってきました。 『イット・フォローズ』のデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督による、L.A.を舞台にした映画です…

深水黎一郎『大癋見警部の事件簿』読書感想文

「読者が犯人」に挑戦した野心作『ウルチモ・トルッコ』でメフィスト賞からデビューした著者による、本格ミステリのお約束を茶化しまくったコメディ短編集、あるいはミステリ評論集(決して"ミステリ短編集"とは呼びませんからね!)です。大癋見警部の事件簿 …

青山文平『半席』読書感想文

時代小説というものをほとんど読みません。 読んだことがある時代小説を考えてみましたが、ほんとに、大好きな泡坂妻夫先生の諸作と、時代小説というよりは少年漫画に近い山田風太郎の忍法帖くらいしかありませんでした。 そんな私ですが、ミステリ界隈で「…

浦賀和宏『十五年目の復讐』読書感想文

十五年目の復讐 (幻冬舎文庫)作者: 浦賀和宏出版社/メーカー: 幻冬舎発売日: 2018/10/10メディア: 文庫この商品を含むブログを見る 著者の前作『Mの女』を読んだ時には、正直なんだかよく分からない話だなと思いました。というのも、『Mの女』は短いページ数…

浦賀和宏『姫君よ、殺戮の海を渡れ』昔書いたの

姫君よ、殺戮の海を渡れ (幻冬舎文庫)作者: 浦賀和宏出版社/メーカー: 幻冬舎発売日: 2014/10/09メディア: 文庫この商品を含むブログ (10件) を見る糖尿病の妹がキャンプに行った利根川でイルカを見たと言う。誰も妹を信じないことに憤った主人公は、妹と友…

浦賀和宏『ファントムの夜明け』昔書いたの

私の中ではここ数年恒常的に浦賀和宏ブームが起こっています。そのためブログを始める前に書いてた浦賀作品の感想をこっちに移して来ようかと思います。ファントムの夜明け (幻冬舎文庫)作者: 浦賀和宏出版社/メーカー: 幻冬舎発売日: 2005/03/01メディア: …

トマス・H・クック『夏草の記憶』読書感想文

チョクトーという田舎町で診療所を営む医師のベン。彼は今でも30年前のことを思い出す。高校生だったあの頃、転校生としてチョクトーの町にやってきた少女・ケリーに恋をしたこと。そして、あの夏、ケリーの身に起こった悲劇のことを......。夏草の記憶 (文…

小川勝己『撓田村事件 ー iの遠近法的倒錯』

『眩暈を愛して夢を見よ』に続いて読むの2度目の小川勝己。 舞台は、岡山県香住村の撓田地区。村落合併以前からの閉鎖性から、香住村に吸収された後の現在も「撓田村」と呼ばれることもあるこの地区で、下半身をちぎり取られ不気味な装飾が施された遺体が発…

多島斗志之『不思議島』読書感想文

多島斗志之。 本人が失明することを厭って失踪してしまったということが話題になった作家ですが、結局発見されることなく、恐らく死亡認定がなされてしまっているであろう年月が経ってしまっています。そういうことは知っていながらも作品は読んだことがなか…

米澤穂信『真実の10メートル手前』読書感想文

『さよなら妖精』『王とサーカス』に連なる大刀洗万智のシリーズの短編集。真実の10メートル手前 (創元推理文庫)作者: 米澤穂信出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2018/03/22メディア: 文庫この商品を含むブログ (5件) を見る 1話目は新聞記者時代の、2話…

浦賀和宏『HELL 女王暗殺』読書感想文

前作『HEAVEN 萩原重化学工業連続殺人事件』の姉妹編というか前日譚というか、な続編です。HELL 女王暗殺 (幻冬舎文庫)作者: 浦賀和宏出版社/メーカー: 幻冬舎発売日: 2018/06/08メディア: 文庫この商品を含むブログを見る 色んな話が交差してややこしかった…

三津田信三『碆霊の如き祀るもの』読書感想文

刀城言耶シリーズ、前作より6年ぶりの第七長編。 元は刀城言耶シリーズのつもりだった炭鉱もののホラーミステリが『黒面の狐』として出されたこともあって期間が空きましたね。というか、むしろそれ以前の年1冊ペースでこの濃厚なシリーズを出版していた状態…

浦賀和宏『HEAVEN 萩原重化学工業連続殺人事件』読書感想文

元は2011年に講談社ノベルスより発表された、萩原重化学工業シリーズ(=安藤直樹シーズン2)第一弾。この度どういった大人の事情があったのか、講談社ではなく幻冬舎から大幅な加筆修正を経て文庫化されました。 講談社も早く安藤シリーズ文庫化して〜〜 HEAVE…

浦賀和宏『透明人間』安藤直樹シリーズその7

透明人間 (講談社ノベルス)作者: 浦賀和宏出版社/メーカー: 講談社発売日: 2017/11/17メディア: Kindle版この商品を含むブログを見る幼い頃、理美は透明人間を見た。それから少しして、理美の父は雪が積もる神社の境内で不審死を遂げた。状況は殺人とみられ…

浦賀和宏『記号を喰う魔女』安藤直樹シリーズその5

記号を喰う魔女 (講談社ノベルス)作者: 浦賀和宏出版社/メーカー: 講談社発売日: 2000/05メディア: 新書購入: 3人 クリック: 202回この商品を含むブログ (27件) を見る 安藤直樹シリーズ。本書は、もう完全にぶっ壊れてしまっている人たちのお話。彼らの狂気…

浦賀和宏『とらわれびと』安藤直樹シリーズその4

とらわれびと (講談社ノベルス)作者: 浦賀和宏出版社/メーカー: 講談社発売日: 2013/08/23メディア: Kindle版この商品を含むブログを見る 安藤直樹シリーズ第4弾。 今回は、大学病院で起こる現代の切り裂きジャック事件に、留美ちゃんとその友達の亜紀子ちゃ…

浦賀和宏『時の鳥籠』安藤直樹シリーズその2

時の鳥籠(上) (講談社文庫)作者: 浦賀和宏出版社/メーカー: 講談社発売日: 2014/05/15メディア: 文庫この商品を含むブログ (3件) を見る時の鳥籠(下) (講談社文庫)作者: 浦賀和宏出版社/メーカー: 講談社発売日: 2014/05/15メディア: 文庫この商品を含むブロ…

浦賀和宏『記憶の果て』安藤直樹シリーズその1

えー、こないだ幻冬舎から安藤直樹シリーズ2ndシーズン、またの名を萩原重化学工業シリーズの『萩原重化学工業連続殺人事件』『女王暗殺』が文庫化されました。 で、この2冊をここんとこずっと読んでるので、この2冊の感想を書く前に昔書いた1stシーズンの方…

甲賀三郎『蟇屋敷の殺人』読書感想文

KAWADEノスタルジック怪奇・探偵・幻想シリーズ。甲賀三郎が昭和13年に発表した長編本格探偵小説です。この年は戦時下の探偵小説自粛ムードがはじまる前年で、戦前の長編本格ミステリとしては最後に近いものだろうと思われます。 しかし内容はおどろおどろし…

西澤保彦『小説家 森奈津子の華麗なる事件簿』読書感想文

森奈津子シリーズ。 祥伝社文庫の中編「なつこ、孤島に囚われ。」、徳間文庫の短編集『キス』を一冊にまとめた再文庫化作品です。内容としてはSF×ミステリ×エロスということですが、前半はコメディタッチ、後半はやや真面目な雰囲気と一冊の中で作風が大きく…