とある田舎町に暮らすロマの青年ザーレは年上の女性イダと恋に落ちる。しかし、ザーレの父親マトゥコは悪党のダダンに借りを作ってザーレをダダンの妹アフロディタと結婚させるという条件を呑んでしまい......。
大好きな『アンダーグラウンド』のエミール・クストリッツァ監督のもう一つの代表作。
アングラに比べてコメディ色が非常に強く、狂騒的で猥雑で残酷さもありながら多幸感に満ちた最高のラブコメでした......。
主人公のザーレとヒロインのイダの前途多難なロマンスを軸としつつ、父親と悪党のあれこれや祖父とギャングのゴッドファーザーな親友とのあれこれやらが複雑に絡み合う群像劇にもなっています。そのため序盤はどれが誰でどういう家族構成やねんとなかなか把握できなかったです。しかし分かってきてからはとにかく騒がしくてゴチャゴチャしたストーリー展開と奇抜だけどとても美しい映像のハイテンションに導かれて夢中になって見入ってしまいました。強いて言えば終盤は終わりそうでなかなか終わらずちょっとダレた感じもしますが、その頃には登場人物たちへの愛着がとんでもないことになっていたので全然許せるというかむしろ引き伸ばし引き伸ばして一生終わらないでほしいとさえ思えてしまいます。
主人公ザーレのなよっとして情けないようで意外と抜け目ないところとか、彼が恋するイダの一貫して自分を曲げない強さとか、おじいちゃんたちの可愛らしさとか、父親マトゥコのどうしようもなさとか、悪党ダダンの胸糞悪いはずなのにあまりにも悪役らしくて笑っちゃう感じとか、その娘アフロディタの反骨精神とか、その他脇役に至るまでみんなみんな、聖人君子ではないしダメダメなんだけどある種のピュアさがあってみんな愛おしくなってしまいます。
インパクトのある映像が多いのも最高。
木にくくりつけられた音楽隊(なぜ?)とか、ジャケ写にもなってる傘さして吊るされてる巨漢(なぜ?)とか、ひまわり畑の情事(なぜ?)とか、なんかツッコミどころというかなんでそうなるん??みたいなのが多いけどその違和感が強烈に脳裏に焼き付いてもう観る音楽見たいな気持ち良さがある(実際に音楽も良い。ロマ音楽っぽいのも欧米のポップスとが併存してるところが良い)。氷運ぶところとかも良かったし、床ぶち抜くところと車椅子ロケットは爆笑してしまった。
あと動物たちもいいよね。タイトルの「猫」はある種語り部的な登場の仕方をして天使とか精霊に近い感覚があるんだけど、アヒルとか犬とかは彼らの暮らしに根付いている感じで可愛らしくも生々しくて良かった。
そして、絶望的なところからの、「なんでそうなるの???」という無理やりすぎる(けど致死量の多幸感に満たされる最高の!)結末にびっくりしました。
そんな風にわざとやってるだろうご都合主義極まる展開や映像の不思議さからは御伽噺のような雰囲気が漂いながらも、活き活きとしたキャラクターと彼らの暮らしや風俗のディテールには強いリアリティがある、そのバランスが大好きです。
なんつーか、こういうのが私の理想の映画なんだと思う。
