大好きなエッセイストの北大路公子による、商業出版されたものとしては初にして現状唯一の小説作品。
全8話の掌編から成る連作形式の作品で、人々が不定期に「入れ替わる」ことで穏やかで平和な暮らしを手に入れた世界の日常を描いた物語になっています。
現実と似ているようで新しい世界を描いた本作、2020年の末に刊行されているのでてっきりコロナを念頭においた作品なのかと思ったら、2011〜13年に連載されていたものを2020になって本として刊行したらしいです。まぁ、2020に本になったことにはもしかしたらコロナの影響があるのかもしれませんが、、、。
んで、その「入れ替わり」という概念なんですが、ある日急にその人の姿や声が別人になる、というもの。この設定をSFみたいに詰めて作り込まないことによる曖昧さが奇妙な雰囲気を出していてなかなか気持ち悪かったです。
時々入れ替わることで以前の自分だった時の怒りとか悩みとか情念が薄れていって結果みんなが穏やかになった世界には、しかし強烈な空虚さもあって、翻って私たちが住む「一生この自分で生きなければならない世界」の、それだからこその尊さも感じさせてくれます。
各話とも入れ替わりが当たり前の世界で、ちょっとだけそのことに馴染めなかったり入れ替わりがなかった世界に思いを馳せてしまうような少しはみ出した人が出てくることが多く、薄らと世界のあり方に対する疑念のようなものが漂っているのがまた不安な気持ちにさせられて上手いなぁと思います。
また後半ではそんな世界の秘密にちょっと迫りそうで迫らなかったり、異端の人たちが出てくるようでそんなに出て来なかったりと、意味深な話が増えつつ、しかし特に何かあるわけでもなくぬるっと終わっていく感じも好きでした。
しっかし、こんな良い小説書けるならアホみたいなエッセイばっか書いてないでたまには小説も書いて欲しいですよね!という気持ちと、良いからアホみたいなエッセイを読ませてくれ!という気持ちでアンビバってしまう読後感でした。北大路公子のエッセイが好きな人にはもちろん、奇妙な話好きの方にはオススメの一冊です。
個人的には引きこもりの話、駐輪場の管理人の話、妻に家出される話が特に好きでした。いちご大福......。
