偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

君に捧げる「恋愛」ミステリ10選

こんばんわ。
恒例になりました10選シリーズ、今週は恋愛ミステリ編にてお届けいたします。

恋こそ、人生最大のミステリ。
というわけで、なるべく恋愛要素がキャラ付け程度に留まらない、ミステリ要素がなくなっても恋愛モノとして読めるような作品を選ぶようにしました。
ミステリファンにも、恋愛コンプレックスクソ野郎にも勧める恋愛ミステリ10選、ぜひぜひ手に取っていただけると嬉しいっす。
ではでは。




1.牧薩次『完全恋愛』

終戦直後から昭和の終わる頃までを生き抜いた画家。その人生に起きた3つの事件と、1つの恋。「他者にその存在さえ知られない恋は完全恋愛と呼ばれるべきか?」

まずはベタにこちらを。
3つの時代の事件が描かれる連作中篇のようでもありつつ、全体で1人の男の一生を描き切った長編でもある構成が素晴らしい。
ここの事件のトリックもなかなかヘンテコで面白いんですが、なにより色んな意味で激動の人生そのものが面白い!そして、「完全恋愛」の結末には美しさと滑稽さが入り混じり、恋というものの得体の知れなさが余韻となって残ります。とにかく満腹感のある大作。




2.連城三紀彦『明日という過去に』

20年来の親友である弓子と綾子。しかし、2人の間の手紙のやり取りで、お互いに隠した大きな嘘が燻り出されてゆく。

恋愛ミステリといえば連城ですが、あえて少しマイナーなやつを。
本作は全編書簡のやり取りによる長編。2人の女の静かに火花散るやり取りにヒリヒリします。
小さな反転を繰り返す展開は連城印。書簡体なんてのは嘘書き放題だから、作風にマッチしてますね。
そして最後はしっかり大どんでーんからの、登場人物の印象さえ変わってしまう余韻も素敵。隠れた良作です。




3.泡坂妻夫『湖底のまつり』

山間の村へ傷心旅行に訪れた紀子は、鉄砲水に流されたところを晃二という男に助けられ、そのまま2人は結ばれる。しかし翌朝、晃二は姿を消し、村人たちは彼は毒殺されたと語る。

恋愛ミステリといえば泡坂。今回は中でも代表的なこの作品を。
出会ったその日のうちに結ばれるという、なんつーか古き良き官能ロマンが、あくまで上品に描かれ、導入からして香り高い。かと思えば、似た場面が繰り返されることで一気に幻想の渦中へ誘われ、真相が明かされると新たなロマンの扉が開く。美しく儚く色っぽく幻想的で、しかもびっくらぽんな傑作です。




4.有栖川有栖『幽霊刑事』

フィアンセがいるのに上司に射殺されちゃった刑事の神崎は、幽霊となって後輩の霊媒刑事と事件を追う......はずが、犯人の上司も密室状況で殺害され......。

有栖川有栖への思い入れが他人に比べて薄いのですが、それでもこれは良かった。
やっぱラブロマンスってのはベタが一番よ。
ニューヨークの幻しかり、幽霊になっちゃうラブストーリーにハズレなし!
真っ直ぐな主人公に馬鹿みたいに感情移入して、純真な彼女への愛に馬鹿みたいに泣いてしまった。最後のとある趣向も良いね。あ、もちろんミステリとしても面白いよ。




5.横溝正史八つ墓村

終戦後、天涯孤独の身として復員した寺田辰弥だったが、"八つ墓村"の田治見家の跡取りとして村に呼び戻される。村には凄惨な大量殺戮の過去があり、その祟りかのように、辰弥の帰還とともに事件が起こり始める。

金田一耕助が全然役に立たない金田一シリーズ(失礼)。
日本の本格探偵小説の金字塔シリーズにして、村系ホラーの傑作でもある本作ですが、同時にハーレム系ラブストーリーでもあるんですね。ヒロインが3人ほどいて、それぞれ主人公との間に矢印が飛び交ってフクザツなニンゲンカンケイ。それぞれの心中がなかなか切なく、実は泣ける恋愛小説でもあるんすよ。今更ですがおすすめ。




6.浜尾四郎『殺人鬼』

とある資産家の家が脅迫され、父親と娘がそれぞれに探偵を呼ぶが、2人の名探偵のいる中で連続殺人の幕が切って落とされる。

日本の本格ミステリ長編が隆盛を迎えるはるか以前、戦前の時期においてほぼ唯一であろう長編本格の傑作です。
趣向を凝らしながらも理知的で上品さを失わない事件の展開、新聞連載なのに完璧に計算された伏線など、ミステリとしてもちろん素晴らしいですが、それとは別に探偵助手兼語り手のいかにも非モテ男子な依頼人への恋心がいじらしく、ラブコメとしても読めちゃうのがすっげえ好き。
あと、トリックの一つも恋愛絡みのものなので、隠れ恋愛ミステリと呼んでもいいと思います。




7.トマス・H・クック『心の砕ける音』

現実家の兄とロマンチストの弟の兄弟の前に現れた流れ者の女。彼女に恋をした弟は、しかし何者かに殺害され、女は姿をくらませた。兄は彼女の行方を追うが......。

これぞ恋愛ミステリ。
謎に包まれたファムファタールの魅力。兄弟の対比。過去への潜行と未来への模索が交差する展開。そして、意外な真相それ自体が、人を好きになること、そして人生というものの美しさと切なさをエゲツなく読者の胸に突き刺す。
それでいて、どこか風通しの良い読後感も含めて、ミステリと恋愛小説の完璧な融合。どちらのファンにも勧めたい傑作です。




8.歌野晶午『ずっとあなたが好きでした』

初恋や純愛からしりとりセックスまで、バラエティ豊かな13編の恋愛小説が収録された短編集。
大半の話で、多かれ少なかれミステリ要素があるのはさすが。とはいえ、著者がミステリ作家であることを忘れてしまうくらい恋愛小説としても素晴らしく、恋する時のキラキラ無敵の輝きも、死にたくなるような苦みも詰まってます。
それでいて、最後まで読めばまごう事なく歌野晶午作品でしかない。
著者らしさと、「こんなにガチな恋愛小説書けるんか」という新境地の両立された傑作です。




9.スタンリー・ドーネン 監督『シャレード

夫が金を持ち逃げして何者かに殺された。そして、主人公は夫の葬儀に来ていた3人の男に付き纏われるようになり......。

これは完璧なエンタメ映画では。
主演のオードリーヘプバーンの魅力が抜群。
しかし、それだけに頼らず脚本・演出も素晴らしい。小粋なユーモアもあり、ロマンチックなラブストーリーでもありつつ、手に汗握る追いかけっこのサスペンスでもあり、どんでん返し連発のトリッキーなミステリでもある。
とにかく観ていてハッピーでしかない問答無用の傑作です。




10.マシュー・パークヒル 監督『ドット・ジ・アイ

結婚の前日に夫以外の男性とキスをする、というしきたりに従い、カルメンはキットという男とキスをした。しかし、そのキスはあまりにも熱く......。

スペイン人のヒロインの情熱的な美しさが印象的なラブストーリー......であり、冒頭からして何かが起こる気配むんむんのサイコスリラーでもある本作。
不倫愛のハラハラをサスペンスに落とし込み、低予算ながらスピーディーな展開と捻りのあるオチで魅せる、隠れた恋愛ミステリの良作ですのでちょっと紹介させてくれや。