偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

君に捧げる「見立て」ミステリ10選

こんにちは。

さて、毎週末、フォロワーのフミ様に捧げてきた10選シリーズですが、一身上の都合(ネタ切れ)により今回で最終回となります。
最後のテーマはずばり、見立て!
ミステリにおけるガジェットの中でも密室や首斬りに並ぶ大人気のテーマですが、選ぼうとしてみると意外と思いつかず、10本選ぶためにあんな作品まで寄せ集めてきてしまったので悔いが残ります。とはいえまぁこれで一旦終わりなので大目に見ていただければ......。
それでは。




1.横溝正史悪魔の手毬唄

ごめなさいけど、見立てなんてまずはこれしか思いつかないでしょう。
都合の良い童謡がいくら探してもなくて、「なければ作ればいいじゃない」とばかりに著者自ら作詞した手毬唄に見立てて村の娘たちが殺されていく。
自作なだけあって唄に擬えた殺人風景が美しい。

山間の集落のロケーションとどろどろした人間関係、そこから生まれた犯行動機もまた強烈なインパクトを残します。
あと、もちろん『獄門島』『犬神家の一族』もオススメ。




2.三津田信三『山魔の如き嗤うもの』

山奥の集落。忌み山で起こる怪異と一家消失。そして、六地蔵の見立て殺人。
怪談要素や過剰な道具立てに見立てがまた合うんですね。納豆とキムチくらい合う。
冒頭の手記はそのまま怪談短編として読めたり、細かいどんでん返しを繰り返すような怒涛の解決編だったりと、このシリーズらしさが存分に楽しめます。また、作中にはちょっとした見立て殺人講義もあり。趣向を凝らした傑作です。




3.麻耶雄嵩『翼ある闇』

これに関しては説明不要でしょ(我がTLでは)。見立てモノと呼ぶには色んな要素が詰め込まれすぎてて大渋滞ですが......。
古風な館に住む名前がヤバい一族、二人の名(銘)探偵、首斬り見立て連続殺人、滝などなど、あらゆるわくわくガジェットをぶち込んであってとにかくめちゃくちゃ笑えるんだけど、見立ての真相もまた笑えます。
また徹頭徹尾探偵小説のために作られた人工的な世界観は非常にクセになるもので、捻くれ者ばかりの我がフォロワーさん界隈で大人気なのも肯けます。
もちろん、見立ての真相もエッジがきいたというか、悪ふざけスレスレのものですが、それだけに「それをそう使うか!」という驚きはデカいです。




4.京極夏彦鉄鼠の檻

世間と隔絶された古刹で起こる不可解な僧侶連続殺人。クローズドサークルで見立てというミステリの王道の趣向を用いながら、京極作品としか言えない独特の世界を作っているのがすごい。とにかく「禅」の思想が事件の全てを牛耳っているようで、いつもの蘊蓄でそれが詳細に説明されることでなんとか読者にも見立ての意味などが分かるっていう一筋縄でも二筋縄でもいかない作品。
私は読んだときはピンと来なかったものの、後々思い返してじわじわくるような余韻が残ります。




5.小川勝己『撓田村事件』

下半身をちぎり取られた死体から始まる村の怪事件。見立て、変人探偵、過去と現在の交錯など、横溝風な雰囲気に満ちた王道ミステリ。......に、あまりに童貞的な自意識や性欲への煩悶が描かれることで一気に物語は小川勝己の世界に。
かなり主観的な青春小説として読んでいると、しかし解決編では群像劇のように関係者たちそれぞれの物語が吐露されるとともに、見立てモノのパロディ的な捻くれた見立ての扱いにやられました。見立て好きはもちろん、童貞または元童貞の方にオススメ。




6.霞流一『首断ち六地蔵

六地蔵の首が切断されて持ち去られた。そして、首が一つ見つかるたびに、奇怪な事件が一つ起こる、という形式の連作短編集。
各話が、それぞれ幾通りかの推理がなされる多重解決の構成になっていて、それが6話分なので、一冊で何十もの推理が読めるお買い得品!
また、それぞれの推理で著者らしいバカミス的トリックが連打され、そこに見立てや連作としての趣向も絡む、過剰なまでに本格ミステリの愉しさが詰め込まれた傑作です。




7.綾辻行人『霧越邸殺人事件』

とある劇団のメンバーが旅行中に吹雪に遭い、偶然に逃げ込んだ館。しかしそこには彼らにまつわる奇妙な暗合が次々に見つかり、さらには童謡に見立てた連続殺人が起きる。

本格ミステリ作家と幻想小説家の二つの顔を持つ著者が、その両者を組み合わせた大作。
見立ての扱いが二転三転するのが面白く、ファンタジー設定に頼らないロジカルな推理が楽しめます。それでいて、読み終わった後の余韻は幻想小説
まさにミステリと幻想の完璧な融合ですね。




8.友成純一『ホラー映画ベスト10殺人事件』

映画評論家の主人公が憎む人間が、有名なスプラッタ映画と同じ手口で殺されていく。最初は喜ぶが、見立てられた映画が彼の選んだ「ホラー映画ベスト10」と同じであることが指摘され......。

思いつかなかったのでもはやミステリではないのを入れました(おい)。
映画評論業界の内幕を暴露し、オタクネタもてんこ盛りの、ホラーマニア向けなスラップスティック・スプラッタ・コメディ。
なので特にミステリファンにはオススメしませんが(おい)、2000人の狂人、地獄のモーテル、悪魔のいけにえといった名前に心当たりのある方は読むといいよ。




9.駕籠真太郎「4人の迷宮」

みんな大好きカゴシン作品から、短編集『ブレインダメージ』所収の一編を。

似た風貌の4人の少女は無機質な部屋で目覚める。何者かに監禁されたようだ。逃げようとする彼女らは仮面の殺人鬼に出会う。

CUBEやSAWを彷彿とさせるソリッドシチュエーションスプラッタで、スピーディな展開にハラハラさせられます。と同時に、誰が何のためにこんなことを?というミステリにおけるWho&How done itの謎が印象的で、その真相を読めば、あなたは必ずこう叫びます。「バッッッカじゃねえの!!?」




10.デヴィッド・フィンチャー監督『セブン』

新人刑事と定年間際の刑事の二人は、巷で起こっている七つの大罪に見立てた連続殺人を捜査するが、犯人の魔の手は彼らにも伸びて......。

雨が印象的な暗くてスタイリッシュな映像美はさすがフィンチャー
主な登場人物は刑事二人だけですが、だからこそ生々しくもカラッとした人間ドラマが描きこまれています。
しかし、超有名なラストに至って、見立ての真相が明かされ、観客は驚愕しながら慟哭する人になるのです。これはもはや、人間に描ける物語ではない。