偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

甲斐田紫乃『超能力者とは言えないので、アリバイを証明できません』感想


本屋さんで平積みになってて気になったので。



冴えない大学生の主人公とその一族が、曽祖父の遺言状開封のために孤島に集まる。
そこで遺言状と弁護士が消失する事件が起こり......。


タイトルからは西澤保彦のSFミステリみたいな感じを想像しちゃいますが、実際のところはミステリ要素は味付け程度のライト文芸といった趣。そもそも、アリバイとか関係ないからタイトルに偽りありですしね......。

事件の真相も実に順当だし、なにより超能力が全然オチに絡んでこない!
ガチのパズラーじゃないにしても、それなりに伏線として機能するかと思いきや、全くそんなことはなく、謎解き要素はミステリと名乗らないでほしいレベルに薄いです。


ただ、ミステリだと思わずに読めばさらっと読めてそれなりに面白いお話ではありました。

私はてっきり主人公がテレポートでも出来るもんだと思ってたんですけど、そういうちゃんとした超能力ではなく、めっちゃしょーもない能力なんですよね。
そんで、しょーもない代わりに能力者がたくさんいて、彼らのトホホな超能力エピソードには哀愁さえ漂います。

また、超能力を抜きにしてもキャラ立ちはなかなか。
複雑な家系図の一族のわりにキャラを覚えるのに全く苦労しなかったあたり、ラノベとしてはとても上手いんだと思います。
ただ、キャラが良いだけに群像劇形式で全員がさらっと描かれるのはやや物足りなく、もう少し掘り下げて欲しかった気も。
あと、主人公のパパのあの秘密のくだりは要らないんじゃないかなぁ......世界観にそぐわない気がするんだけど......。

まぁそんな感じで、ミステリ読者には勧めないものの、箸休め的にさらっと読むにはオススメの一冊です。