偽物の映画館

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浦賀和宏『生まれ来る子供たちのために』読書感想文


ついに決定的な破綻を来してしまった剛士と純菜の関係。さらに妹の美穂の身にも悲劇が。明かされる八木の出生の秘密。そんなことより、こんなもん書いた作者の浦賀和宏を俺は一生許さねえ!俺の復讐が始まるぜ!


生まれ来る子供たちのために (講談社ノベルス)

生まれ来る子供たちのために (講談社ノベルス)



はい、完結です。読了です。クソです。私の心はクソ模様です。クソ。うんこ。大好き。



えーと、本書は第1章で「とある姉弟」の物語が語られる以外は、各章にそれぞれメインキャラクターたちの名前が冠されています。
その章題の通り、彼らひとりひとりの内面をここにきてさらに深く深く抉り出していき、ひとりひとりの物語に結末を付けていく。
キャラたちに愛着があるだけに一章ごとに感慨深くつらい気持ちになりましたね。

そして、これまで張られてきた伏線の回収や、シリーズ全体に横たわった謎も解かれたり解かれなかったりして、ミステリっぽさも十分。

結末はまさかの×××でびっくり。
そのへん賛否両論分かれそうではありますが、ここまでやらかしたらこうでもしないとどうしようもないというか、どうせ綺麗にまとまるはずもないんだからこのくらいやってくれたほうがいいっつーか。まぁとにかく、良かったです......最悪です......よかったです......。


思えばシリーズの初期はまだ普通のミステリだった気がするんですが、どうしてこうなった......。
たぶん3冊目か4冊目あたりからは、八木剛士の鬱々とした、それでいてエロいこと考えるときだけ生き生きとした語り口に感情移入できるかどうかでかなり評価が変わってくるシリーズであったと思います。
で、私はもうほとんど完璧に感情移入してしまった......というか、なんなら普段思っていることがそのまま書かれていただけってぐらい親近感を覚えたので、同族嫌悪しつつものめり込んで読んでしまいました。
ただ、こんなクソ野郎に100%共感できるうんこマンは世の中そんなにいないだろうから本シリーズが浦賀作品の中でもあんまし人気ないのは分かる。ただ、浦賀作品に通底する青年の鬱屈を分かりやすくストレートに「そこまで書くか!?」ってくらいリアルな恥部まで曝け出した様は素晴らしい。私のようにハマってしまえば浦賀作品の中でもいっとう偏愛しちゃいかねないシリーズであったと思います。



......とりあえず、ネタバレなしにはこれ以上語れないので、以下ネタバレしながらシリーズ全体についてと本書の終わり方について書いていきます。
























というわけでネタバレ感想。



いや、まさかマルチエンディングとは......。

まぁ、一応、核戦争から何億年......みたいなのは剛士の妄想で、純菜側のエンディングの方が現実寄りっぽくはあるのですが、それも実際どうなのか......。煙に巻かれたような気がしなくもないですが、本シリーズのテーマの一つを「自我」とすると、こういう主観次第な終わり方こそ相応しい気がしますね。

何億年もの間絶えずレイプされ続けた純菜が一瞬正気に戻って「コロシテ」と呟くシーンはあまりにも泣いたんですけど、なんでみんなこういう時カタカナで喋るんだろう......。


そして、ミステリっぽい仕掛けとしては“力"を持っていたのが剛士ではなく妹の美穂だったというのは意外性抜群。それが明らかになるのが童貞/処女であるかどうかにかかっているのがまた......。
しかし、剛士の力が失われなかった時点でやはり彼だけが特別なのかと思ったら、実は彼だけが力を持っていなかったという皮肉なオチは、自己の存在意義を問うたシリーズの結末としては完璧なのではないでしょうか。青春小説としてのエモさの中にしれっとミステリセンスを垣間見せてくる感じ好き。 



シリーズ全体のテーマは、一言でくくるなら青年の鬱屈した心理。
細かく見ていくと自意識と性欲と存在意義と復讐と......ってな具合ですかね。
それがめちゃくちゃ生々しく描かれているのにびっくりしましたね。

普通、エンタメ小説って主人公の一人称でもある程度デフォルメがかかってるっていうか、自分に照らし合わせようとするとちょっと主人公が意識高すぎたりするんだけど、八木剛士という男は完全に実際の童貞高校生が考えるようなことを考えていて素晴らしい。
普通、、青春小説だとせいぜいヒロインとセックスしたいくらいなことしか描かれないと思うんだけど、彼の場合はとにかく童貞を捨てられるなら誰でもいい!なんていう潔さ。わかるそれなよくぞ言ってくれた!と喝采を送りたい。

あるいは、純菜をレイプした八木の気持ちだったり、八木が純菜をレイプしたことを知った南部がまず「羨ましい」と思う気持ちだったりも、とんでもなくリアル。
純菜の気持ちを想って胸が痛くなるのも事実ですが、それ以上にクズの八木と南部におもっくそ共感させられてしまうのが恐ろしいです。
普通、そんなリアルな心情を誰も言わないし書かないんすよね。
だから、私は今まで自分がどこか人の心を持たない異常者なのではないかと思ってるフシすらありましたが、本書を読んでつらかったけどある種「こういう醜いことを考えるのは俺だけじゃないんだ」という救われたような気持ちにもなりました。


他にもいろいろ言いたいことがあるはずなのですが、あまりのエモさで言葉にする能力の限界ってのと、言いたいことは全部本編に書いてあるってので上手いこと言えないのでこの辺で終わらせてもらいます。
ともあれ、今まで読んだ浦賀作品の中でもダントツに共感できるシリーズでありました。

それにしても、純菜......きみだけは救われて欲しかった......。